日本シリーズ四戦目の先発は、プロ入り二年目の本格派右腕、岸孝之投手。前年は駒大苫小牧出身の楽天・田中将大投手と新人王を争い、地元贔屓で田中投手の受賞を願っていた私には「目の上のたんこぶ」的存在であった。
私は長らく西武ライオンズを応援して来ていたが、北海道日本ハムファイターズが本拠地を札幌に移して以降、ファイターズファンを名乗っていたりもする。日頃のファイターズ視点では、今季対戦成績でファイターズがライオンズに負け越しているのを示す通り、岸投手に関してもなかなか打たせてくれない「天敵」というイメージがある。しかし、直前に行われたクライマックス・シリーズでは、ファイターズが岸投手から五点も奪って四回ノックアウト。いざライオンズ側に立ってみれば、これは大きな不安要素。
そんな心配を他所に岸投手の調子は良く、敵打線のバットが空を切り捲り。もう何個目なのか、スクリーンに奪三振を誇示する文字が躍る。マウンドの細い身体から繰り出される球が見逃され、キャッチャーのミットに吸い込まれる様は芸術的。日頃のファイターズ寄り「敵目線」で見て、悔しいけれどもやっぱり良いピッチャーだよなあ、と溜息。
相手投手から受けた死球に端を発する乱闘未遂。
中村選手は「おかわり」二連発。
旗振ったり、歌ったり踊ったり、風船膨らませたり飛ばしたり、何だか忙しい。
試合は5-0でライオンズの勝利。岸投手は最後まで一人で投げ抜き、散発の被四安打、計十個の毎回奪三振での完封。日本シリーズ初登板での完封と毎回奪三振は、史上初めての記録。
万が一負けていれば三敗目で後がなくなり、明日の観戦が辛いものになる危険性があったのを、「目の上のたんこぶ」で「天敵」だった岸投手が救ってくれた。場内に流れる控え目なヒーローインタビューを聞きながら、勝ち試合を観戦出来た喜びに浸り、帰る足取りも軽くなった。