現地ガイドの鐘さんは初日に会った時から台湾の豊富な果物を熱く語っていたくらいで、私達が今までの食事でまともにありつけていないことを知ると、市場で買って帰れと言い出した。
マンゴーにライチ、いずれも大好物ではあるが、青果物は検疫の関係で日本に持ち込むことは出来ないし、翌朝早くに帰国するので食べる暇も無い。
と断ったのにも関わらず、裏通りの八百屋へとずんずん進んで行ってしまう鐘さん。売物なのに断りもせずに良いのかという疑問をぶつける間もなく、束ねられたライチの枝から一つ二つ、品を変え店を変え、何度も試食を繰り返す。しかし、彼の舌を満足させるものは置いていなかったようで、何も買わずに退散。
諦めたのかと思いきや、車で別の市場に移動。夕方になり只でさえ開いている店が少ない中、これと決めた店でも並んでいる品ではなく在庫から良いものを持って来させる。何が何でも私達に、彼が納得する味のライチを食べさせたいようだ。彼は自腹でプレゼントしてくれるつもりらしく、最早「要らない」などと口に出すのも憚れるという。
巨峰や梨など、日本の果物専門店もあった。
買い物が終わってホテルに戻る筈が、何故か免税店に寄ることになった。相方も行きたがったし、まあいいかという感じ。そして、免税店が入っているリージェント・ホテルに到着後、鐘さんはライチ一袋を持って、このホテルに滞在している別の客の元へ向かったのだった。真の目的はそれかよ!
というわけで、そちらのライチ好きの客も私達と同様、翌朝帰国するらしいのだが――どうするんだ、このライチの束。