西田のかるた歴は10年。太一には、西田と大江の入部が有難い。
「おれ 千早には一回も勝てねーし おれが名人目指してるわけじゃねーから 勝てなくてもいいんだけど 千早の練習にはなんないじゃん」
西田が肉まんを頬張りつつ、太一に話す。
「綾瀬さー あいつ ものすごいかるたバカじゃん おれらじゃ物足りねーだろうに全力で来る 超腹減るよ 目標があるやつは違うよな クイーンだろ?」
太一は、千早と新がかるたを前に向かい合っている光景を想像する。
新 いつか新と
五人目の部員勧誘で狙うは、太一に次ぐ学年二位の秀才クラスメイト、いつも机に噛り付いて勉強している机くんこと駒野勉。駒野の挑発により、裏返しのかるたで勝負することになった千早と太一。鍛えていれば、裏返しでもある程度は取れる。順調に取り合う二人だが、記憶の仕方がいつも曖昧な千早に切れがない。
か…… 勝てるかもしれない 千早に――
そう気付いた太一が本気モードになる。いつもの「練習してくれてる太一」ではない、と千早のスイッチも入る。白熱した戦いに息を呑む、西田と大江、そして駒野。
『勝てなくてもいいんだけど』 そんなワケあるか 千早 目の前にいるのはおれだろう?
裏返しかるたは太一の勝ち。本気で悔しがる千早の頭を、太一は笑いながら軽く叩く。千早が太一にいがんでみせる。駒野は黙って部室から出て行くが、太一が追って来た。
なんでこんなやつがいるんだろう いい友達もいて 能力もあって
才能がないから机しか居場所がない、と叫ぶ駒野に、太一が怒る。
「かるたの才能なんか おれだって持ってねえ きついけどやってんだ 負けるけどやってんだ だって勝てたとき どんだけうれしいか……っ」
熱くなったのを照れ隠ししながら、太一は言葉を繋ぐ。
「……でも おれは 仲間にするなら かるたの”天才”より 畳の上で努力し続けられるやつがいい」
駒野の心が動き、部室に戻る太一の後を追う。
memo
駒野勉=机くん、初登場の回。肉まんくんがクイーン戦(女子試合)の話をしているのに、何故か千早の前に座っているのが新という構図を想像する太一。不自然な描写が引っ掛かるが、ずううううっと後の第31巻第162首を読んでやっと、注目すべき点が分かる。もう一つ、その想像から発せられた「目の前にいるのはおれだろう?」も、違う形で第163首にて出現。
机くんは「月例考査毎回一位」と言っているが、時期はまだ一年次の四月か五月なので「毎回」にも引っ掛かる。ちょっと細かいけれど。
肉まんくんの送り札は 「ながらえば」。太一の想像上で、千早が新に送っているのは 「ちはやぶる」。裏返しかるたで読まれたのは 「うかりける」 「おとにきく」 「わがいおは」 「やまざとは」 「せをはやみ」 「なにわがた」。