花野は爪の手入れに、恋バナメールにと忙しい。国立文系クラスの千早は西田と、国立理系の太一は駒野と同じクラス。太一は考え込んでいた。
千早―― わかってないんだあいつ いま時間がどれだけ大切か 思いつきでやりたいことだけやりたがってんだ クイーンになるのが夢のくせに 負けたら泣くくせに 止めなきゃいけない おれが――…
千早と西田が昼休みに部室に行くと、一人だけ私立文系クラスの大江が畳を拭いていた。二年生部員の議題は、一年生をどうするか。ここでも自分が教えると主張する千早に、太一は苛立ちを隠せない。
太一は千早の「名人戦・クイーン戦優先派」。大江は自分が一年生を教えると言い、「礼儀作法重視派」。駒野は部室返上を回避出来るので、一年生ともそこそこ楽しくやりたい「環境重視派」。西田は二か月先に迫る「高校選手権重視派」。千早は、と話を振られて出た言葉は。
「…… 私が いまいちばん大事なのは 太一がA級になること」
名指しされた太一や皆が驚く中、千早は続ける。
「それで目標は 高校選手権団体戦優勝 個人戦各階級優勝 一年生教育にも力を入れて 北央学園みたいなかるた強豪校になるの!!」
当然のことのようにさらっと言い切る千早に、皆引っ繰り返る。
ご… 強欲 こんな欲深い人間 見たことねえ――
しかし、かるた強豪校はちゃんとした指導者がいないと無理である。
「私 後輩ができたら 卒業してもかるた教えに来るんだあ」
最早、皆も、太一もただ感心するしかない。
こんなに欲張りな人間見たことない こんなにかるたが好きな人間も――…
太一は白波会の練習に行きたいと申し出る。西田も駒野も太一が言い出すのを待っていたのだった。駒野は「決まり字」の話から千早も変わったが、千早が言ったことで太一の変化も感じていた。
「真島がやっと 自分のことだけ 考えはじめたよ」
千早は別室で一年生の指導。花野は一つの歌に涙を流す。
はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに
その通り、若さも美しさも、すぐに色あせてしまう。恋に生きんでどーする! と花野は部室から脱走。そんな彼女はさておき、千早はかるたで人の心を最初に掴むのは「歌」だと改めて知る。
花野は駅のホームで太一を発見。周りの女子が太一に視線を送っている。もてるから彼女には困らないだろう、と話す花野に太一が言う。
「あー…… なんかそーいうの最近わかんなくて…… 男が女に選ばれてどうすんだって思う おれは 選んでがんばるんだ」
静かな牽制。駅に着き、太一は下車。
怖いくらい痛感する 真島先輩は絶対私を選ばない いやだ 私だって選びたい 私は後悔の歌なんか詠わない
太一を追い掛け、花野も電車から降りる。
memo
新入部員問題の回。千早読み間違いの件で最初に「すみれちゃん」でインプットされたのに、わざわざ苗字を聞いて「花野さん」と言い直す太一。部長だからけじめつけてるのか分からないけれど、かなちゃんも他男子部員も、太一は苗字呼び。でも、千早だけは昔からの馴染みということもあってか「千早」なんだよね。
登場する札は、菫に纏わる「はなのいろは」と、一年生の気になる歌談義で「きみがため・は」「あまつかぜ」「かくとだに」。