準決勝。女子は千早対理音、横浜嵐会の優木秀子と田丸。男子は須藤対太一、 原田対美馬。 太一は賭けに乗らなかった須藤を再度挑発。周防は太一に、実力があり過ぎてかるたが好き過ぎる若宮には勝てないと話していた。
「自分のかるた」に集中するタイプは手ごわい 集中させないことだよ
ぼくのことはたいてい みんな 「あ 名人だ」って緊張してくれる 詩暢ちゃん以外は 最初から集中を欠く要素がある きみはどうする?
太一は須藤に目を向ける。
”須藤のSはドSのS” 独善的に見えて 須藤さんはコミュニケーションから離れられない
それらを踏まえ、須藤に言う。
「須藤さんは かるた辞めるなんてうそでも言えないくらい この世界が好きなんですよね」
須藤には、太一が周防と重なって見えた。しかし、太一は周防ではない、と思い直す。
「悪かったな ノリが悪くて 反省反省 乗ってやるよ ”負けたら競技かるたを辞める”だっけ? つまんねーから足してもいい? ”勝ったら競技かるたを一生やる”」
虚を衝かれたように固まる太一。二人の会話に驚いた表情の千早。須藤は見抜いていた。
いつ辞めてもいいとか思ってやってんだろ 伝わってくんだよ 周防さんもおまえも かるたを好きじゃない 首を絞めにきたその手で 自分の首も絞めろ
太一は暫く須藤を見詰めていたが、畳の札に目を落とす。
集中の削り合い 須藤さんらしくて ホッとする ”負けたら競技かるたを辞める” ”勝ったら一生やる”
千早の場には「ちは」札がない。
でも 太一がいる 太一がいる 太一がんばれ
序歌が始まった。が、読手が「すみません」と咳き込む。選手達は「すみのえ」だと思い、反応してしまっていた。千早と理音はどちらが払ったのか判断が付かなかった。そこで二人とも集中し直す。桜沢先生は息を呑む。
抑制が外れる…… 4オクターブの 極限の”感じ”勝負になる
須藤は太一の右下段に突っ込み、お手付きしていた。太一は右下段に固めてあった一字決まりのうち、「す」以外の3枚を左下段に移動させた。須藤の気を散らしたところで、読み直しとなった札が偶然にもまた「す」で、太一が払う。太一がすぐさま差し出した送り札は「ちは」。須藤には分かっている。
送って狙ってくるつもりだろ いいよ かかってこいよ
周防は和菓子を頬張りながら考えていた。
真島くんはがんばってるかな サッカーやってたからかな フェイク自体はぼくよりうまい まさかここで? ってとこでやる
若宮から電話が来た。東西予選の日はテンションが上がる場所にいつもいる、と話していた周防が今いるのは空港。ただ、長崎行きの飛行機には乗るのは止め、見送っただけ。若宮に「弟子」が出ている話を振られる。
「弟子じゃないけど あの子が来たら おもしろいね 長崎に帰るより テンション上がるかもね」
太一対須藤。「ちぎりお」を太一が抑える。須藤は「ちは」をマークしつつ聞き分けていたが、太一は迷わず自陣の札を囲っていた。周防に言われていたのだった。
「狙っちゃいけない札」っていうのがあるんだよ きみにとっては「ちは」がそれだ
太一が「ちは」を捨てるなんて出来るのかと、須藤は半信半疑で見ているが……
「ちは」は狙わない しねぇよ 真っ向勝負なんて
memo
東日本予選準決勝、男子は太一と須藤、原田先生と北央の美馬、女子は千早と理音、田丸とモブキャラ優木の戦い。太一はちょくちょく絡んで来る千早に見入ってしまうなど、千早への気持ちまで捨て切れているとは思えない。真っ向勝負で押して駄目だったので、引いてみろ、ってのが今なのだろう。
周防は何故今になって帰郷を思い立ったのやら。第154首で太一が「帰ったら」と軽い調子で言っていたのを受けて、気軽に帰ってみようと思ったのか。最後の名人戦の前くらいは、と思ったのか。詩暢は周防に電話したり、こころちゃんに纏わりつかれていたり、結川と稽古したりと、上手くやっている様子。新の視界に入っていなかったのが、唯一気掛かり。
「ちはやぶる」の札を捨てた太一と、「ちは」はなくとも太一がいるから別にいいや的な千早。「太一がいる」は第32巻第164首の「違う始まりの瞬間に太一がいる」からのロングパス。冒頭で新を想う千早の頬が毎度の如くほんのり染まっているが、「太一がいる」の時の紅潮度とコマの扱いが上回っている。
読まれた札は「すみのえの」「ちぎりおきし」。