暦は三月。まるで地獄から這い出て来たような顔の千早が、大江と花野の肩に手を掛ける。
「相談があるの… 二人とも…」
学年最後の定期考査の結果票を涼しい顔で見る太一。「2位」の票を握り潰す駒野。担任の宮内先生が、次年度は受験生となる生徒達に訓示。
「勘ちがいしてはいけませんよ 受験生とは勉強の習慣がついている者のことです 勉強をし疑問を持ち理解し演習をする これが習慣となっていますか 社会に関心を持っていますか 大学入試の範囲は教科書だけではなく あなたたちの人生全部です」
この訓示を帰宅途中の電車内で、太一は千早に話す。「人生全部」に驚く千早。実質特進クラスだからであり、千早のクラスでは言われないだろうと、千早はひたすら驚愕。
「受験と部活の両立って まあ無理って思えてくるよな」
太一の言葉に無言になる千早だが、とりあえず4月最初の土曜日は花見をしようと持ち掛け、駅に着くなり本屋に行くから太一はついて来るな、と走って消えた。
そこに坪口が現れ、太一は居酒屋に連れて行かれる。未成年の太一は烏龍茶。坪口は新との試合について訊く。太一の頭には「人生全部」のフレーズが浮かぶ。
「受験生みたいでした 名人になるために 人生全部で 準備をしてきたような そしてそれを 楽しんでるような」
小学校のかるた大会で戦った時、千早が「あれは名人になるやつだから」と言っていた。
「すごいな まつげくん そこまで『ちがう』って思ってるのに ちゃんと悔しいんだな」
店を出て、言葉少なに去ろうとする太一に、坪口が言う。
「千早ちゃんが頼んできたんだ おれに まつげくんの話を聞いてきてほしいって」
本屋について来るな、と言った千早を太一は思い出す。
「…… …新のことが 聞きたかったんじゃないっスか」
坪口が笑った。
「そう思うんだ バカだな」
3月14日。太一が花野に塩辛のお返しを渡し、報告する。
「おれ ちょっと 言ってこようと思って」
驚く、というより焦る花野。
「え!? なにをですか!? いまですか!? やめてください に… 2週間待ってください」
花野は「2週間待ってくださいよ~~~」と念押しして逃げて行ってしまった。
かるた部の部室では、毎日昼休みに何やら準備している部員達。駒野、大江、花野はデータに名簿作り。西田は姉にTシャツのデザインを依頼。千早は必死の形相でひたすらメール。
4月2日。太一が千早に連れて来られたのは、白波会でいつも使うかるた練習場。
「太一 今日 誕生日だよね おめでとう!!」
有志による「太一杯」開催。部員達に他校のかるた仲間、原田先生など白波会の面々までもが集まり、表に「太一杯 HAPPY BIRTHDAY」、裏に「18」とプリントされた揃いのTシャツを着ている。太一に与えられたTシャツの表面は「太一杯主役」。
な に こ れ
太一、絶句。
memo
季節は三月、各校では卒業式。ホワイトデーを挟み、四月頭の太一誕生日イベントへと移る。広史さんが太一に高松宮杯の試合について訊いて来るが、早三カ月経過してるんだよなあ。一つ一つの行動のスパンが長い。せっかちな私は、グズグズしてないでさっさと単刀直入に聞け、とか思ってしまう。