第二試合が終わって観客が部屋から出ようとするも、千早が扉の前で寝ており、若干邪魔になっている。その後ろを擦り抜けて出て来た新は、千早と若宮に気付いた様子だが、顔を背けて立ち去る。
勝利した太一を、駒野や西田が労う。ヒョロは感涙しつつ、厳しい言葉を掛ける。
「でも 結局また 運命戦で自陣出てねーじゃねーか 譲ってもらって勝つなんて邪道!! 3試合あるからって 勝手してんじゃねーぞ」
結川は、若宮に提案。大阪にあるスノー丸の版権を持つ会社と、若宮が着物で世話になっている日高屋なら競合しないので、スポンサー契約を目指せと言う。
「決定戦負けてもうたから うちはもう あんたの対戦相手になれんから うっ… 同会のよしみや あんたがなりたい かるたのプロになる方法を 一緒に考えたるわ…」
新は南雲陣営で励まされる中、由宇の弁当のウインナーとカツオの竜田揚げを食べ始める。
休憩時間を利用して散歩に出た太一は、自身が昔言った「青春全部懸けたって 新には勝てない」のことを考えながら、掴み取った勝利を一人で静かに噛みしめていた。そこに周防が現れた。太一は黙って頭を下げる。踵を返して会館に戻る太一に、駒野が声を掛けた。周防はそれを聞き、太一が三試合目に進んだことを知る。
札を並べながら、太一が新に「千早すげーよな」と話し掛ける。「うん、すごい」とだけ返す新に、太一は言葉を続ける。
「おれ サッカー 4歳から始めてんだよ サッカーでは3人っていうのが大事な数字でさ 3人でトライアングル作って ボール運ぶのが基本で―― 1人でも 2人でも うまく運べねーんだ」
二人を見守る原田はそれを聞き、太一が「新と千早のいるところに行きたい」と言ったのを思い浮べていた。
「おれが 新に1勝? ははっ 千早が勝ち上がるより信じらんねえ 3人で到達できる最高点ってここじゃね?」
笑いながら話す太一だったが、一呼吸置く。
「でも… 千早がもし夢を叶えるなら クイーンになるんなら 一番近くで その瞬間を見たい」
一年生の夏に「千早の夢が本物の夢」になった瞬間を、太一は見て来た。太一の考える「一番近く」は、千早と同じ畳の上で、名人と対戦する自分だ。
新は顔色を変えずに太一を見ていた。
太一が疲れてる 普通だったら言わないような 一枚一枚 花びらを散らして出てくるような「ほんとのこと」が いちばんきれいな気持ちが
試合が始まった。周防は外から窓越しに観戦。千早は母と大江に控室に運ばれ、休息中。
memo
第二試合目後のインターバル。千早は終始寝っ放し。太一の勝利が決まり、原田先生は厳しい表情にも見えるが、広史さんや瑞沢一同は凄い凄いと褒め称えている。唯一ヒョロが突っ込んだくらい。太一は表情を変えることなく、大っぴらに喜んだりもせず、勝利は勝利として受け入れているだけのようだ。
新陣営は、誰も問い詰めたりはせず、次に向けてただ励ましている。実質二勝のようなものだし、という余裕もありそうだ。警戒しているのは、栗山先生のみ。新父が弁当を食べる新を、動画で撮っている。何故わざわざ動画?
新の表情は、一貫して無の状態。何を考えているのか分かり難い。試合直後に詩暢と千早に気付いている様子ではあるが、顔面が陰でぼかされ、目は描かれていない。西予選時の第184首で、声を掛けた詩暢を無視した時の冷たさが思い出される。なので、弁当を頬張る顔は異質。やけに子供っぽいのは、子供時代から変わらない、というのを表現しているのか。かるたや千早に対するスタンス、性格面などで。
太一が疲れている、と新は認識しているが、体力面ではなく気力の方を指しているのか。千早の話をしつつも、気負っていない太一に見える。そう言えば、肉まんくんは新の状態について、リラックスという表現を何度か使っている(第39巻第169首など)が、似たようなものか。
丁寧に札を並べる太一の指先にあるのは、紅葉と竜田川の「あらしふく」。試合が始まり、一枚目で飛んでいるのは新陣にあった「あきのたの」。名人戦で陣決めに使う札だ。新の取りのようでいて、微妙にも見える。その次の描写は、太一陣の右中段がごっそり払われているが、自陣に強い太一の取りか。
第39巻終了。袖の歌は第202首で勝負がついた「契りきな」。巻末四コマ漫画は、小石川秀作と結川桃編。
描かれた花は菖蒲(しょうぶ)と見るが、花言葉は「信頼」「情熱」「嬉しい知らせ」「あなたを信じる」「優しい心」「優しさ」「伝言」「心意気」「優雅」。帯は「青春ぜんぶ懸けてここまできた――」で、紙版コミックスには帯がかかって太一の顔が半分隠れる仕様になっているのだが、新と太一の位置が逆ならしっくり来るような。