勝利を決めた途端、いつものように即寝する千早。取材陣が新の方へ押し寄せる。
「やっぱり 5試合目まえに食べたソースカツ丼やったと思います 勝因は お…おなかの中から抱き締めてくれてます ぼくの地元とじいちゃんが」
30年ぶりの「綿谷名人」に感慨深げな重鎮達に、涙を流しながら喜ぶ南雲会陣営、祖父の写真を掲げる由宇。
周防は兼子に、病気の遺伝のせいだと謝られるが。
「一廉の人間になりたかったわけやなかんや ……たださ 兼子ちゃんにさ 伝えたかったっさ おいにとって兼子ちゃんは 一廉ん人間ばい 立派な人ばい」
それを聞いて大声で泣く従兄に、周防は言うのだった。
「耳悪うなったら困るわ まだ まだ取るる気がするったい 綿谷くんにまだ… 勝てる気がするったい」
若宮祖母から電話が来る。若宮はこれまでの祖母への感謝を伝え、悔しいと大泣き。かるたをまだ続けたいと訴える。祖母は微笑んで答える。
「どうぞ 優秀な芸術家のパトロンになるのは いい大人の楽しみやからな」
その後、若宮は取材に毅然と対応。運命戦での「せをはやみ」札について話す。
「どれほどは離れても 報われなくても 何度敗北しても 大きな流れの中で うちらはもういっぺん会える歌うてるんどすなぁ…」
千早は控室で目覚める。周りを見回すが、太一がいない。太一はロビーで飲物を買っていた。
すげえよ 新も千早も 同時に夢かなえて あの約束のそばにいたのに 置いてきぼりだ いつも いつも
太一を千早が見つけると同時に、新も姿を現す。お似合いすぎるんだよ……と目を伏せる太一は、二人に祝福を伝え、新に宣言。
「……ま 待ってろよ 新 来年 おれが倒しに ここに来るんだよっ」
それを聞き、千早と新が顔を見合わせハイタッチ。二人が太一の元に駈け寄り、三人で抱き合う。笑顔で受け止めた太一が見たのは、「自分じゃなくなりたい」と言っていた小学生の太一。太一は心の中で謝り、小さい自分を抱き締める。
表彰式。トロフィーを受け取った千早を、若宮は穏やかな表情で見やりつつ、かるたに思いを馳せる。
あんたらが 人生への想いを乗せた百の歌 それ使って 速さ競って 勝敗つけて かるたやるうちらを 好きでいるん? 好かんでいるん? この世界を祝ってるん? 呪ってるん? わからへんさかい やるんやんな
帰宅の途に着く千早一行。最寄り駅のベンチに千歳がいた。
だれにでも この人に認めてもらえないと意味がない 核にあたる人がいる
千歳は涙を流し、千早を褒める。
「千早 千早すごい すごいじゃん 私の妹 クイーンじゃん がんばったじゃん 世界一」
泣き崩れる千早に、駆け寄る千歳。
(最終首つづく)
memo
最終首は通常の倍あるので、前半後半に分けた。決着後は過不足無く描かれて大団円。特に詩暢周りは、祖母との関係、イケズと交えて話す「せ」札、百人一首と競技かるた、どれも綺麗にまとめられていて読後感もすっきり。千早については、トロフィーを飾る名前札を愛おしそうに触れているのみで、インタビュー描写は無い。支えてくれた人達のお陰です、で太一に焦点が当たるのでは、とクサい展開を想像していたのだが。
太一の「おれが倒しに ここに来るんだよっ」は、第132首にて、前年で引退しようとした周防に新が言った台詞そのまま。しかし、太一がまだ小学生時代を引き摺っていたとは。千歳の件も、キャリーバッグを届けてくれたという事実で、ケリがついていたと思っていた。仕事場に行ってなくて大丈夫なのかw 年末年始にかけて冷戦状態だったので、確かに直接の対話が殊更効果的ではある。「世界一」の言葉も貰えた。にしても、皆あれもこれもと過去に囚われ過ぎだなあ。