周防の陣の札が減ったことで、新の動線が変わり、新の荒々しい連取が続く。新からの送り札は「ちは」。大盤係を務める舜の認識では、新が「ちは」を送る局面はそうそう無い。ただ、それでは名人相手には勝てないのだ。正月の練習で、舜は読まれる札を事前に知らされた上だったのに、舜が取り負けていた。
新が超加速で「ほ」を取った。周防が得意な二字決まりを送った上で、自陣の一字決まりを守る作戦だ。
攻めを取り戻したから 守りが効く
「むらさめの」は周防の取り。
時々早く取れるからって なんだっていうんだ 一枚は一枚だ
周防が太一の姿に気付いた。
尊敬されたい 強いってさすがやって思われたい ほかのことがろくにできない僕たちの命綱なんだ 競技かるたは
キョコタンの読みの美しさは 自分自身との対話 札との対話 一枚一枚じゃないんだよ 百の歌人の運命との対話なんだよ
いかに強かろうと きみも僕も ほんとはろくに向き合ってない かるたにも 自分にも
名人戦は最終盤。周防陣に「ちは」一枚、新の陣は「もも」「みち」「あい」の残り三枚。幼少時に兼子が教えてくれた思い入れのある「あい」のみ、まだ一字ではない。
僕の一番好きな歌 僕のがらんどうに 最初に流しこんでくれた音
読まれた「あい」に、周防が必死に手を伸ばして取った。
光か闇か 心を満たすのがどちらかなら やっぱり光になりたい こんな僕だって 大事な人の希望でいたい 名人でいたい
memo
名人戦第四戦は、周防勝利。もう一戦残しているが、周防が名人位に執着を見せたこと、太一にも兼子にその姿勢を認識させたことで、周防の問題は解決とみて良いのだろう。
読まれた札は「いにしえの」「こいすちょう」「たごのうらに」「ほととぎす」「むらさめの」「みかのはら」「ちぎりきな」「あさぼらけ・う」「あいみての」。