若宮は小さい頃から百人一首の本を読み漁っていた。例えば、藤原定家は障子一枚に二枚ずつの色紙を貼り、一つの壁に八枚で、それが四部屋。意味も人も工夫して並べられ。
千早は取った「もも」札を見詰め、若宮の強さの秘密を考える。送り札は「もろ」と思いきや、一字決まりとなった「つく」。
この札は 詩暢ちゃんを呼ぶ?
和歌の意味と背景を競技に持ち込む大江をかつては否定していたが、千早は西田と最近話していた。
「じつは ものすごく強靭な暗記の確認だったんじゃないかと思うの 知ってる? 百人一首って 2首ずつふすまに飾る色紙だったって」
今回の戦況を見て、大江が語る。
「ふつうの暗記に重ねて 『ひとも』と対になると言われる『もも』の札 同じように天皇筋の対の札『あきの』『はるす』 『はるす』はないのでこの場合は『あきの』 若宮さんはそういう細かい関連づけで 暗記を強化しているのではないですか……?」
千早は畳の上の札を確認。天皇の歌は「つく」と「きみがため・は」がある。「たきのおとは」を取られたが、次の「よをこめて」を自陣左から取る。
いたたまれないから そろそろ読まれたいって 読まれるなら おちょくり相手の公任さんのあとがいいなーって
その声を盗み聞きさせてもらった、と千早なりに歌人と対話。
原田は目を見張る。
広範囲に自在に狙い札を持つ若宮クイーンの その瞬間の絶対取りたい札を潰しにいった いかにクイーンが常人離れした数狙えるとしても 絶対取りたい札はその中でもせいぜい2~3枚 より強い糸で繋いだその数枚 その糸を切る そんなことができるのか 千早ちゃん
千早が次の札を取り、送り札の「しの」を、因縁の「こい」の傍に置く。若宮はそれをいつもとは違う左側に置き直す。次の札は「しら」だったが、若宮が「しの」を払ってしまう。まさかのお手付き。千早からの送り札は「め」。
memo
第二試合中盤、攻略方法を掴み始めた千早。詩暢は今回「しの」を左側に置いたが、第209首で描かれた詩暢の配列表だと右下段の内側の方にある。
途中、千早と詩暢が向き合う様子に、原田先生の弟子の女性が前年の名人戦を思い浮かべ、「この感じ…」と何かに気付いた様子が描かれている。その場面は第128首で「原田先生が見せようとしてくれてる本物の」という太一独白が付いており、今回は構図から千早を指していると思われる。
肉まんくんが家庭教師をつけている描写もあるが、ガハハ系でうざい。こんな押しつけがましい家庭教師なんて実在するのか、という疑問もあったが、作者の旦那様がプロ家庭教師らしい。デフォルメされているにせよ、参考にしている部分はありそうだ。
もう一つの疑問は、「つくばねの」の札で筑波が俺の札と言った時、「そうなの?」と波田が言ったところ。苗字全ての音が入っているのに、今頃それはないだろう。
読まれた札は「たきのおとは」「よをこめて」「ながらえば」「しらつゆに」。