冒頭は、高校三年生の綾瀬千早がクイーン戦に挑む数カット。以降、物語は回想に移る。
6年まえ まだ情熱を知らない私
小学六年生の千早には、美少女グランプリの最終15人に選ばれるくらい美人の姉がいる。クラスメイトの真島太一が「姉妹なのに千早はまだ男って感じだよな」と暴言を吐き、千早が素早い足蹴りを喰らわす。太一は転入したての綿谷新にもクソガキ的な苛めを繰り返すが、成績優秀でスポーツ万能、虐めっ子モードの時以外は見た目も美少年。
その新は福井弁や貧乏生活のことなどでクラスメイトにからかわれ、仲間外れにされている。正義感の強い千早は、福井弁訛りを馬鹿にする女子に対し、ふと口にする。
「あたしが綿谷くんだったら 笑うためにメモとってる人と話したくないなあ」
背中を向けている新にも聞こえた様子。太一もそんな千早を見ていた。
下校中、新と千早はそれぞれ太一に水溜りに突き飛ばされて濡れてしまい、千早は新が住むアパートに立ち寄った。千早は姉が日本一になるのが夢だと話すが、新が咎める。
「ほんなのは夢とは言わんよ 自分のことでないと夢にしたらあかん のっかったらダメや お姉ちゃん かわいそうやが」
では、新の夢は、と千早が訊くと、新が百人一首の箱を出して来る。千早はお遊びのつもりで応じるが、新が札を見詰める表情や取るスピードに圧倒される。せめて一枚取りたい。
せをはやみ いわにせかるる たきがわの われてもすえに あわんとぞおもう
知っている札に狙いを定めて「せ」で飛び出し、新から初めて一枚奪取。結局、千早が取れたのはこの一枚だけで完敗。福井では皆かるたをやるが、東京に来てからはいつも一人でしていた新。
「日本で1番になったら 世界で1番ってことやろう? かるたで名人になるのが おれの夢や」
新は千早という名前に触れ、一枚の札を示す。「からくれなゐに みづくくるとは」という下の句が書かれた札が、上の句の「ちはや」を聞いただけで取れるので、新の目にはこの札が「ちはや」に見えると言う。
ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
帰り道で、千早は夢について考える。
大人しい新に対する太一の虐めは続く。新を庇う千早も標的にされるが、千早は意に介さない。
「あたしはいーから 綿谷くん解除してよ 太一」
穏やかな表情と口調で新を庇う千早だが、太一はそれが気に入らない。
「綿谷くん かるただったら ここのだれにも負けないよ」
千早の言葉で、新と太一は学校のかるた大会で勝負することになった。初戦から本当に一枚も取らせず圧勝の新に、焦りを覚える太一。二人は決勝で対戦することになるが、太一は超厳格な母親が見守る中、負けるわけにはいかない。太一は新の眼鏡を隠してしまう。新は太一を疑うが、千早は否定。太一は自身が千早に庇われたのが意外そう。
「太一は心はせまいけど そんなひどいやつじゃないよ」
ど近眼の新は持前の記憶力で快調に札を取って行くものの、札の位置が動くと全く対応出来ない。周囲から新へ飛ぶヤジもえげつない。千早が新に代わって出ると割って入った。太一は千早に負けるわけがないと高を括り、それを了承する。千早は捨て身戦法でどうにか勝利。
「太一との勝負 すっごいおもしろかった かるたって楽しいね」
負けて悔しがっていた太一も、はっとする。千早は太一に更に言う。
「綿谷くんが相手じゃこうはいかなかったよ あれは名人になるやつだから」
新は千早に、女性名人は「クイーン」であることを教える。
memo
私がこれを記し始めた時点で単行本20巻以上も発刊されているが、一つの大会で巻を跨ぐことも多々ある長い話なので、前振りがこんなところにあったのか、と物凄く後になってぼんやり気付くことが多い。それが何処に掲載されていたのかを遡るのも、なかなか大変。なので、一話ずつ書き出してみました。
声を大にして言いたいのは、この作品は「漫画」であること。活字だけを追い、絵で表現されている部分やかるたの札で暗示されている意味を見逃すと、違う感想が導き出されてしまう、ミステリー作品のようにトリックに嵌ってしまう――と私は感じています。また、このメモにて語彙力不足や違う感想解釈もあろうかと思いますが、個人の備忘録に付きご容赦下さい。とにかく原作を何度も繰り返し読むことを強くお勧め致します。
冒頭で千早が飛ばした札は「ちはやぶる」と「あきかぜに」。対戦相手は左利き。新が出して来たかるたの箱に見えるのは 「たごのうらに」 「たまのおよ」。他に登場した札は、新宅で読まれた 「あらしふく」 「ながらえば」 「きみがため・お」 「おくやまに」、学校のかるた大会で 「ゆらのとを」 「やまがわに」 「みせばやな」 「わすれじの」 「なにしのわば」 「きみがため」、千早の背景に描かれた 「ひさかたの」 「これやこの」 「ちぎりきな」 「あまつかぜ」 「ひとはいさ」など。