千早は棄権。太一の声掛けで、残された四人で円陣を組む。
「わかってるな この場にいちばんいたかったのは千早だ おれたちが簡単に負けたら 千早は絶対死ぬほど泣く 勝つしかない 瑞沢勝つぞ」
宿舎で眠りから覚める千早。布団を抜けて部屋を出ると、廊下に須藤がいた。明日の個人戦にエントリーしているため、北央学園が毎年使っているこの旅館に泊まっているのだ。
「体調不良で棄権ってなんだよ おまえ 東京の代表で出たんだろ!?」
須藤にそう言われ、泣くしかない千早。責め続ける須藤を、宿に到着した太一が怒って止める。千早は土下座。
「ご… ごめん みんな ごめん――…」
大江が宥め、駒野も千早に言う。
「綾瀬 おれ 今日初めて勝てたんだ!!」
その後も奮戦ぶりを話す駒野と大江、そして西田。太一だけはその輪にいながらも、黙って千早を見ていた。千早は謝罪を有耶無耶にされてしまったが、皆の気遣いを嬉しく思った。
絶対治す!! 完璧な体調で明日の個人戦に!!
千早が部屋で布団に包まり気合を入れていると、太一が様子を伺いに来た。
「(明日)出るよ!! だって今日… ホントに全然ダメだった…… …… 新… がっかりさせちゃったかなあ せっかく来てくれたのに もっと いいとこ見せたかったのに……」
太一は一呼吸置いてから、軽口を叩く。
「まあな おまえ 重かったしな もっと軽いかと思ったのに チョー重かった」
千早が「嘘!?」「ひぃ!!」と変顔でいつもの調子に戻ったところで、太一は新から二人へということで預かって来た福井土産の菓子折りを出す。包み紙にメッセージが書かれてあった。
次は試合で。 新
千早は箱を手に泣き出す。
新 新 新に届いてる
一晩明けて個人戦。千早はA級、太一と西田はB級、大江と駒野はD級で臨む。太一は新のメッセージを思い浮かべるが、B級はB級としか当たれない。千早は須藤に声を掛けられ、若宮詩暢について教えられる。
「小四でもうA級になってる京都の高校一年 史上最年少クイーンだ」
見れば、近江神宮で参拝した日に擦れ違った人物で、須藤に話し掛けて来た。
「やめてください クイーンやなんて 須藤さんに一回戦当たらへんかってホッとしてるのに でも団体戦で出場逃したのに 個人戦やなんて よほどかるたがお好きなんやねぇ ほな試合で当たりましたらお手やわらかに」
千早は須藤と彼女の背中を見送る。
クイーン…… 日本の女性の中で いちばんのかるた選手 私の目標 どんなかるたを取るんだろう どれだけ強いんだろう 早く勝って あの子のかるたを見たい
そんなことを考えながら挑んだ一回戦だが、A級同士の戦いは楽ではない。しかし、若宮は北央の甘粕相手に24枚という大差で勝利し、早々に部屋を後にする。千早はその若宮と二回戦で当たった。
席は読手の人の真正面 原田先生なら「勝利確定席!!」っていうポジションだ 近い 吐く音 吸う音 聴け 最初の音
千早は耳を研ぎ澄ませるが、初っ端から二枚取られてしまう。
真空を飛ぶ 針のような 音のしないかるた
memo
団体戦が終わって宿舎の場面から、翌日個人戦までの回。「あんた なにやってんだよ」と二学年上の須藤に怒る太一だが、当の千早は須藤とすっかり仲良し(?)に。個人戦一回戦で読まれた札は「たきのおとは」「こいすちょう」「あしびきの」、二回戦は「ほととぎす」「みかのはら」。