準決勝。相手の声に圧倒され、千早は一枚目から取り逃す。太一に言われたのに。
おまえだけは 絶対に負けるなよ
その言葉が背中に圧し掛かり、得意の「ちは」札すらチームで一人落としてしまう。
音が遠い――
北央の須藤は偵察中。
声を出すのと出さないのじゃ 身体の軽さが違う 黙ってて強いチームなんかない
北央のオーダーはヒョロが、タロットカードならぬヒョロットカードで八割を当てている。須藤はヒョロに言う。
「もし瑞沢が勝ち上がったら あの髪長い子と対戦したいな きれいな子をいじめたい」
太一が声を掛けても、千早の調子は戻らない。六枚差となり、千早のパニックは酷くなるばかり。
私 いままでどうやって取ってたの 思い出せない 思い出せないよ――
太一が周りの札を派手に飛ばしながら、札を払う。立ち上がったついで、皆ににっこり。呆けているメンバー。太一はそれぞれの頭を軽くぽんぽん叩きながら自席に戻り、一人ずつに声を掛ける。
「西田 まずおまえが勝ってくれ それでみんなが楽になるから」
大江にも一言。
「大江さんも粘ってるじゃん いまいちばん調子いいよ 勝てるよ」
最後に千早。
「千早 おまえは 息をするだけで 勝てる」
千早は息を吸ってみる。対戦相手の顔を初めてきちんと見る。息を吐いた。残り札を確認する。心配そうに部屋を覗いている駒野と目が合った。空を飛ぶ鳥の羽音も聞こえる。落ち着いたところで一枚取った。
「よっしゃあ」
千早の雄叫びに皆安堵。千早は一気に盛り返し、逆転勝ち。チームとしても三勝一敗一不戦敗で乗り切る。終了後、大江が駒野を捕まえ、着物を直してあげつつ駒野の足を見る。
「…… 気がついてましたか? ここにいる人たちの足の甲 みんな皮膚が硬くなってタコになってる 畳の上で何年も正座をしてきた足です 私たちがなかなか勝てないの当然じゃないですか タコができるまでがんばりましょうよ」
微笑む大江に、駒野もやっと言えた。
「かなちゃん…… さっき 初勝利おめでとう……」
大江は涙ぐむ。即寝した千早を連れて、太一と西田も来た。
仲間にするなら 畳の上で努力し続けられるやつがいい
駒野が太一に以前言われたことだ。三人の足には痕がある。駒野は皆に謝罪し、仲間に戻る。
memo
東京都予選、決勝トーナメントに進んだものの、四人での戦い。太一スマイルに女の子のかなちゃんだけでなく、肉まんくんまで頬を染める。千早はぼけっとしている顔に近い。机くんは前回「大江さん」呼びだったのが「かなちゃん」になった。
試合で読まれたのは「ありあけの」「ちはやぶる」「わすれじの」、太一が吹っ飛ばした「なにしおわば」、正気に戻った千早が取った「かくとだに」。