決勝戦のオーダーを考える五人。千早はこれまでの相手チームを見て来て、太一のように声を出せて全体を見れるリーダーが中央、千早と西田のような早く勝ち星を上げられる選手は端にし、挟まれた選手を盛り上げるのがベストだと提言する。どの選手と対戦するかを考えるより、自チームが百パーセントで戦える形で行こうというわけだ。
千早 さっきまで 泣きそうな顔してたのに――
観戦に訪れた原田先生に、太一は反省を口にする。
「…… 先生 おれ 千早でもプレッシャー感じることあるって知らなくて…… 千早のいつもの強気さに かける言葉間違って―― あんなにボロボロになるなんて…… 千早のことさえわかってないんだって わかんないとダメですね おれ 部長だから」
「青春全部懸けたって新より強くはなれない」と言っていた太一が。リーダーらしい頼もしさを醸し出す太一を、原田は見守る。
目が離せないんだ これだから ここにいるのはもう 違うきみじゃないか
対戦相手は強豪の北央学園。須藤は千早と、ヒョロは太一と対戦したがる。ヒョロは小学校時代に負けたことがないから。
試合前の一礼で、千早が頭が須藤の顎にぶつかる。「あっすみません」と謝ったものの。
「『ごめんなさい』は? 『ごめんなさい』じゃないとイヤだ」
性格も面倒臭そうだが、「ちは」札をこれ見よがしに一枚だけド真ん中に据えるという配置に、千早は動揺。北央の顧問、持田先生も頭を抱える。持田を知る原田が訊けば、須藤は変人だが名人になる器だと言う。原田も対抗し、千早について言及。
「未来のクイーンだと思ってます」
序歌が始まり、須藤が声を張り上げる。
「北央 5戦全勝でいくぞ」
瑞沢は一人ずつ「み」「ず」「さ」「わ」、締めで千早が叫ぶ。
「ファイトォ」
初めての掛け声であった。
この「ちはや」に惑わされるな いつものかるたを攻めるだけ
千早の決意も束の間、一枚目から五人とも相手に取られた。すかさず、太一が大きな声を出す。
「ここからだ 攻めるぞ 瑞沢ぁ!!」
太一の、熱血キャラばりの腹の底からの掛け声に、毅然とした佇まい。瑞沢メンバーは気を引き締める。太一は試合前、大江と駒野の二人に言ってあった。
攻めるんだ 確実じゃなくてもいい 手を出せ 敵陣に切り込め 攻めろ
しかし、千早は出札が悪く、攻め切れない。須藤は楽しそうに送り札を差し出して来る。
攻めがるたというのは―― 敵陣の札のほうを積極的に取りに行くこと 相手に精神的ダメージを与える意味もあるが 札を送ることで自陣を有利に組み立てる目的もある 千早ちゃん 絡め取られるな――
そんな原田の心配も余所に、千早は苛々。「ちは」札に気を取られ、せっかく敵陣が読まれたのに取り逃す。
「ごめんなさいって 言わないから」
須藤の言い草にかっとなる千早だが、駒野が一枚取って興奮する声に驚いて吹っ飛ぶ。
「綾瀬 おれだって敵陣取れたぞ おまえが おまえが攻め負けてどーすんだ!!」
駒野は自身を更に鼓舞。西田も太一も無事取った。
個人戦で戦ってるとき 一枚はただの一枚だった いまは――
千早は呼吸を整える。
いまは チームの一枚を取りに行く
memo
予選決勝戦。太一って頭脳で引っ張るだけではなく、熱いリーダーシップも取れるタイプだったのか、と認識させられた。原田先生に言った「おれ、部長だから」あたりの表情も良い。
試合で読まれたのは「たちわかれ」「かぜをいたみ」「いまはただ」。苛々千早が敵陣から取り損ねたのは「つくばねの」。