新と再会した太一。同じく久しぶりの再会となった師匠同士の賑やかさに呑まれ、新との会話は彼の師の説明を聞いた程度。新が太一に、二つ折りにしたメモを渡す。
「おれ ちょっと勘違いしてたわ 今日 太一はA級で出ると思ってたんや」
その言葉が太一に影を落とした。
「もし必要やったら それ千早にも教えて」
太一が渡されたメモを開くと、新の携帯電話の番号とメールアドレスが書いてあった。
千早は駒野からの怒りのメールも振り切り、大会会場へ急ぐ。
なにしてるんだろう 私…… 勉強のことも かるたのことも 自分のことはなに一つ前に進まないのに だけど 太一が勝ったとき 負けたとき 一人だったらどうしようと思うんだ そんなのはいやなんだ
千早が会場に到着するが、太一は敗退済み。ショックを受ける千早に、太一は伝える。
「千早 新が出てる」
千早は試合会場へ行き、新がかるたを取る姿を見詰める。原田先生もその視線の先に気付く。原田が控室に行くと、太一が見ていたメモを握り潰し、肩を落としていた。
新のかるたは水が流れるがごとく、札に向けて自然に手を伸びて行く。水面を弾くように、札を飛ばす。千早は魅入られていた。
暗い表情のまま、会場に戻る太一。千早が太一の手首を急に掴んで来た。
「太一 太一 やったね! やったね!」
以前、太一は千早に言った。
強くなってあいつを待とう 新は必ず戻って来るから
千早は涙を零している。
太一 やったね
太一の目からも涙が伝う。
いやだと思う気持ちと一緒に おれの中にもやっぱりあるんだ やった 新が帰ってきた
memo
吉野会大会で太一は新と再会するが、新が何気にドス黒い。彼は直近の大会の結果表で、太一がB級準優勝と知っている。全国大会B級準優勝という情報を得ているのかは不明。A級ではないと分かっていて嫌味を言ったのか、発破かけてるのか、「B級」での準優勝であったことを見落としていたのか、B級準優勝二回で昇級済みだと思っていたのか。いずれにせよ、お互いにというか常に皆、言葉足らずだ。
千早が会場で向かう最中に「こぬひとを」、新を見つけた瞬間に「めぐりあいて」、その後「かくとだに」「もろともに」「かささぎの」の空札が続き、「かぜをいたみ」が読まれたところで水を弾くイメージが描かれている。
太一の高校一年次の公式戦はこれで終了。一年分の戦歴を纏めておく。
全国大会予選
- 栄光大付属
- 秀龍館
- 華咲学園
- 準決勝 冨原西
- 決勝 北央 木梨浩 8枚差
全国大会団体戦
- 佐賀・武知
- 大戸川添
- 輝星
- 岡山・? ※恐らく勝利
- 静岡・富士崎 ※勝敗不明、チームは敗退
全国大会個人戦B級
- (この間、五試合で詳細不明。二戦目は不戦勝)
- 決勝戦 富士崎 戸田 ●3枚差で敗戦、準優勝
石川県金沢市北国かるた大会 B級
- ●詳細不明だが敗退
埼玉大会B級
- 一回戦 木梨浩 3枚差
- (この間試合数など不明)
- 決勝戦 西田優征 ●運命戦で敗戦、準優勝
吉野会大会B級
- 一回戦
- 二回戦
- 三回戦 ●敗退