新の敵を討つ、と若宮は対戦相手の千早を見据える。が、疑問が生じる。
? なんでうちがそんなこと思うんや 新の勝ちも負けも うちには関係あらへんのに ただ 確かめてはみたい あんたが新より強いなんてことがあるのか――
千早の体調は万全。札を眺めると、また「ちは」がない。少しがっかりしつつ、落ち着いて札を並べる。
どんな札が並んでも 詩暢ちゃんはきっと変わらず強い 18歳 私 今日こそ 恥ずかしくない試合をする
読手は五十嵐専任読手。一枚目は空札だったが、千早は速い動きで空を切って対処。次の札で二人同時に払うが、千早は咄嗟に譲ってしまう。かつて原田や西田に注意されたのを思い反省する千早だが、若宮の方も取りを主張しなかったことについて伊勢先生は考えていた。
若宮は幼少時から札に描かれた物語を深く理解し、かるたの飲み込みが早かった。ただ、優しい性格で友達と取るとわざと負けてしまうため、明星かるた会にも来なくなってしまった。
詩暢ちゃんの練習スタイルは一人取り…… 一人では閃光のように速く取る でも ほんのすこしでも「いる」と思うと 一人のときのペースでは取れなくなる
二人は取りつ取られつの良い勝負をしている。新を負かした選手だと、観客が千早に注目し始めた。若宮も危機感を覚える。いつも決まり字まで手を動かさない若宮だが、囲い手を使って札を取った。
子供のころから何度当たっても 新には一度も勝てたことがない うちが勝たんうちに どうでもいい子に負けるやなんて許さへん うちの唯一の友達が どうでもいい子に
千早に声を掛けられた時のことを思い浮かべる。
詩暢ちゃん またかるたしようね
直後、「うら」がまだ出ていないのに「うか」の札を千早が鋭く取った。理音も同じように、五十嵐読手の声を良く聴けている。かるたの読み上げCDやアプリで一番聴いて来た読み。
札に描かれた人物達が千早に惹かれているように感じられ、若宮は愕然。伊勢は若宮を見詰める。
詩暢ちゃん 人のかるたを受け入れろ 人の強さを 自分のかるたしか取れなければ クイーンの寿命は短いぞ
memo
個人戦ベスト8、千早と詩暢の戦い。一人かるたばかりしていた詩暢の欠点の巻。読まれた札は「たまのおよ」「おくやまに」「いまはただ」「ひさかたの」「おおことの」「うかりける」。
私自身が学生の頃を振り返る時、高一、高二というように学年で考えるので、千早が年齢で数えているのが引っ掛かった。第26巻第137首での太一の「今日18になったんだ」はちょうど誕生日だったからというのもあるだろうが、「18」には意味がある? 小説版によると千早と太一が出会ったのが小学三年生=8歳(太一の誕生日は始業式前だから厳密には9歳)らしいので、ちょうど十年。あと、男子も結婚出来る年齢でもある。そういや、12月生まれ設定の新はまだ17歳だね。
「うちの唯一の友達が どうでもいい子に」について、「どうでもいい子」はそのコマで描かれている千早で、「唯一の友達」は新のことらしい。つまり、中途半端に終わっているそのモノローグにも「負けるやなんて許さへん」という言葉が続くわけだ。二度繰り返すことで、千早なんぞに負けやがって! という気持ちが強く表れていると。
ただね、詩暢は新と確かに仲良さそうに喋っていたけれど、毎年試合で戦う程度なのに、新を友達扱いしていたとは思いも寄らなかったわ。単なる顔見知りレベルだろ!? 第20巻第107首で周防さんに友達かと聞かれても肯定せず、冷たい視線で「邪魔な河」と言ってたじゃないか! と突っ込みたいが、詩暢ちゃんには「友達」だったんだね。そして、第30巻第157首でヒョロも「子供の頃からかるたを続けているだけで友達」と定義付けてあったよ、そう言えば。