運営委員達が前日の団体戦で負けた新のことを話している。
「団体戦向いてなかったってことじゃないですか?」
新は宿舎で爆睡する部員達に囲まれ、目を開けたまま仰向けになっていた。女子部員が起こしに来て、慌てて出発。部員達は夢に出て来た話をするくらいには元気そう。新は先生に申し出る。
「おれ 個人戦出んと みんなの応援しようかと思うんです…」
若宮が着物姿で取材を受けている。大江は慌てて自分の着物を千早に差し出すが。
「かなちゃん ごめんね 私 お母さんが買ってくれたあの着物でないと 浦安の間で戦うときは あの着物でないといやだ」
藤岡東チームが会場に到着。滉と舜はB級会場へ急ぐ。二人は新の発言に驚いていた。
おれがみんなを部に誘ったのに なんの力にもなれんかった 団体戦は後悔することばっかりや せめて個人戦はみんなが実力出せるように 近くで応援したい…
そんな新を、先生が「応援など役に立たない」とばっさり斬ったのだった。
藤岡東は昨日のあれが実力や かるた以外はとことん不器用なおまえに たった3カ月でキャプテンシーが身につくか うちのことを思うなら おまえが狙うのは名人の座や! ”OBに名人がいる” 部にとってそれがどれだけ価値があるか
新は太一が書き残して行った「次は試合で」という言葉を思い浮かべた。
試合会場で千早が新を見つける。
私… 昨日 本当に新に勝ったのかな 神様みたいに思ってた男の子に どうやって勝ったのかな よく覚えてないんだ 新は覚えてる?
新と目が合った。千早は左手で自分を指しながら、右手人差し指を立てる。
だから 新 やろうね 今日 もう一回
黙って千早を見ている新の背後に、若宮がいた。新が負けたことは取材記者から聞いてある。
「『高校ナンバーワンは自分や』? よくもまあ そないなうぬぼれ 新 あんたのせいやで 潰したるわ」
C級会場にいる大江は袴姿。暑過ぎるだろう、レンタルか、コスプレ気分などなど、一人注目を浴びている。それも恥ずかしいが、千早に着物を着るよう頼んだことも恥じていた。対戦相手がドンと音を立てて無作法に座るが、大江は流れるような所作で腰を下ろして一礼。その美しさに皆が息を呑む。
かるたは千早ちゃん 着物の世界に仲間を増やすのは 私の役目よ
B級会場には駒野と筑波。駒野の頭には西田から言われたことがこだましている。
全国大会終わったら つきあってって かなちゃんに言わねーの? 言わねーの? 言わねーの?
D級会場には花野や一年生部員達。宮内先生は三年生を気にしつつ、こちらの付き添い。
ああ 最後だなんて思っちゃだめ 永遠に続く今日のように 楽しむのよ のびのびと
A級会場では田丸が若宮と対戦するも、21枚差であっさり敗戦。ベスト8が出揃った。西田は北央の美馬、富士崎の理音と筑豊女の長谷川朱音、新と富士崎の日向、そして千早の対戦相手が若宮となった。若宮は不気味に笑う。
「ああ 怖い怖い 一番当たりたない人に当たってしまいましたわぁ 綿谷新を負かした女子選手やなんて」
千早と田丸は戦慄を覚えるが、千早は太一の「次は試合で」を思い、気を強く持つ。
太一が「次」を語る 目の前にはばあっと かるたの道が続いてる
若宮は千早を見据える。
潰す どんだけ無様な試合したか知らんけど 新 あんたの敵討ったるわ
memo
全国大会個人戦開幕。「OBに名人がいる」は太一にも当て嵌まるね。今後堂々とOB面するため、それで挽回して前回太一母曰くの「間に合った」と言いたいところ。尚、見た夢を語る部員達のほっこりぶりも侮れないというのが、数話後に分かって来る。
千早と新の交流がもどかし過ぎる。数メートル歩いて直接話せば良かったものをジェスチャーなんかで済ませるから、詩暢が大誤解して燃えてしまったではないか。それよりも新の気持ちが気になる。千早のメッセージが正しく届いていない可能性があるどころか、千早に思うところがあるような表情。
千早にとって新は「神様みたいに思ってた男の子」で、太一のことは第20巻第104首時点で「ずっと一緒にがんばってきてくれた男の子」。神様みたいに「思ってた」と過去形なのは、福井訪問時の手紙に「神様じゃなくて友達でいたいよ」とある通り、再会する迄の間だけを指すのかな。
筑波昇級は「じつはいつの間にかB級」の手書き補足文字だけで初出。第31巻第160首で「格上」に勝利したと褒められて微妙な顔をしていたのは、実は同等だったからか。