撮影現場に若宮が現れた。当初は若宮に話が来ていたらしい。周防が言う。
「僕は 自分のことは天才だと思うけど 詩暢ちゃんはちがうと思う あれは 努力の人だよ」
テレビカメラの前に、対戦相手役として座る羽目になった太一。撮影では見栄えのする一字決まりが読まれ、太一もそうと分かれば周防からでも取れる。若宮の進言で二字決まりや三字決まりに変えると、時間差が明確になった。
数字で出ると実感するな 周防さんのすごさ ああはなれない ああはなれない…
続いて、若宮対太一。一字決まりと分かっていても取れない。取れる気がしない。
”詩暢ちゃんのは 音のしないかるた”
千早はそう評していたが、今なら分かる。映像を見返すと、ハイスピードカメラでもブレている。
中指で札の隅をはじいてる 最短距離の一点を 音を聴く力はおれと変わらなくても 動くスピードと正確さがちがうんだ 若宮詩暢の能力は 後天的なもの 努力でたどりつける最高点――
若宮は祖母に勧められ、取材を受ける気になったのだ。まずは、かるたで有名になること、と。
周防は和菓子を頬張りながら、太一を見ていた。
やっぱりテレビはわかりやすいな 全部 数字と理屈にして説明してくれる 彼に合ってる
団体戦は二回戦。予選と違い1年生をメンバーに入れつつ、何とか突破。富士崎はA級揃いだった前年に比べて小粒だが、成績不振は困る。桜沢先生が顧問を辞めるかもしれない、結婚するという噂があるのだった。
memo
周防のお供で大阪にいる太一。詩暢ちゃんが何故か太一のことを覚えている。瑞沢優勝時の団体決勝戦しか見ていない筈。しかも、瑞沢が今回も東京代表なことや、太一がまだ高校選手権に出場しそうな学年=同い年ってとこまで把握! と突っ込んでおくよ。
読まれた札は、対周防で「すみのえの」「ほととぎす」「かささぎの」、対詩暢で「むらさめの」「さびしさに」。近江神宮の試合中に「はるすぎて」「たちわかれ」「みかきもり」。