若宮は伊勢の自宅兼明星会練習場を訪ねる。初めて来たのは六歳の時で、走って通った。ところが伊勢は不在で、クイーン戦で大盤係を務めた結川桃との練習を会の女性に勧められる。
クイーンのお手並み 話のタネに拝見しまひょか
遠慮しようとする結川と、正座して待つ小学生達の様子が、そんな風に若宮には見えた。若宮は結川を圧倒するが、一字決まりを取られた時に結川の独特の配置が若宮と同じ左利きであるからだと気付く。若宮は容赦なく取り続け、15枚差で勝負がついた。
若宮が帰宅すると、テレビやラジオのオファーが来ていた。母が狙いを話す。
「かるたのプロになるんなら それはこういうことや 有名になって自分売り込んで かるたをやってるあんたを 価値あるものにするんや」
千早は須藤に連れられ、北央の練習場へ行く。須藤は前の試合の続きからやろうと言うが、千早は読まれた札を挙げるが記憶があやふや。須藤に小馬鹿にされる。
「須藤さんだって 絶対完璧だって言えるんですか? 太一だったら完璧なんだろうなー」
最初から取り直すことになり、周防の読手音源をコピーしたUSBメモリを須藤が用意。千早は断る。
「須藤さんはどんなに性格が悪くても 卑怯なことしちゃダメなんです」
無言になる須藤。見入る部員達。結局、小峰読手や廣田読手の古くて珍しいありあけを使うことになった。
「気ぃ抜くなよ おれは 勝つかるたを磨きたいんだ」
須藤は千早を読手講習会にも連れて行く。講師の山城今日子の指導で、初めて参加した千早は注意されてばかり。講習会が終了し、公認読手のテストに進める三人の中に須藤が選ばれた。須藤はこっそりガッツポーズ。
『勝つかるたを磨きたい』 『名人になりたい』
須藤が前に話したことを考えながら、千早は須藤と練習。連取が出来ない。須藤は口撃も効果的に使って来る。北央部室の畳や札はボロボロで、須藤がそれに目をやり口を開く。
「いつか おれがかるた協会の会長になったら おもしろくねえ? ハハ 夢とかじゃねーけど アリじゃね? 向いてね? 普通に就職して かるたも続けて ずっと続けて じじいになっても続けて 運営のほうもいろいろやって 後輩のかるた部のやつらが 安心して楽しくかるたやれるように 仕事しながらやる それがおれの思う文武両道 かるた協会会長って全員 名人経験者なんだぜ 笑うー」
須藤の言葉に感銘を受ける北央部員達と先生、そして千早。千早自身も高校のかるた部の先生になって、大江や駒野みたいなのを集めて、と想像するが、彼等を思うと太一の台詞が蘇る。
かるたは一段落だからな
どうやったら周防に勝てるのか。考えながら、千早は須藤に答える。
「わかんないけど 私は速さを磨きたい いろんな手で来てください」
若宮はバラエティ番組に出演。演出のため、対戦相手の一人にはわざと札を取らせてあげなくてはならない。言われた通り相手に取らせた札は「しのぶれど」。イケズは禁止! という母の言い付けも守り、愛想を振りまく。札が小さな神様に見えると語っていた若宮に、司会者が今は何と言っているかと訊く。
「えらい楽しい って 言うてます」
そう答えて札に目を落とす若宮だが、収録後に札の入った箱を何度も翳してみる。
言うてない 言うてない なんも
箱を取り落とし、床に散らばる札。
memo
須藤とタッグを組んだ千早。須藤はかるたに対しても意外なレベルで熱くて真剣だ。千早の口から太一の名前が漏れたことに、須藤は何か感じることがあった様子。 卑怯といえば太一に纏わる言葉として何度も登場しているけれど、周防のかるたを指すのだろう。そもそも千早は太一をそう評価していないと見る。
詩暢は害悪母のお陰で迷走中。その詩暢が走っている場面、手書きで何度も「遅い」と描かれているが、第175首で太一は彼女のことを「運動神経がすごい」と述べている。走るセンスだけが無いのであって、かるた面に特化した反射神経の持ち主?
明星会で読まれた札は「わすらるる」「めぐりあいて」「ももしきや」「よのなかよ」「こいすちょう」。テレビ収録時は「ひともをし」、相手に取らせたのが「しのぶれど」。札の指定があったのなら変更すべきところ、制作側や詩暢母の無知ゆえか、詩暢本人があえてこの札を取らせたのか。本当の自分じゃない、というメッセージを込めて。詩暢の指先にあるのは「きみがため・お」、その隣は「おぐらやま」。他のコマで畳に描写されているのは「おおえやま」「せをはやみ」、敵陣に「こころにも」。