千早はリズムを整え、順調に取り始めた。
結川さん相手に 実行できなければ 詩暢ちゃんを前にしてできるわけがない 敵陣に手を出しすぎるな フライングを自分に許すな しっかり聴いてからでも 取れる札は取れる
「こ」が4枚あったが、暗記が得意なわけではない、と駒野は分析。
「道路を開通させる」くらいの労力で 札と自分を結んでんだよ ”感じ”がいいから お手つきも多い だからせめて覚えまちがいがないようにって ずっと――
結川が札を移動させた。2パターンの配列を持っているので、今度は左陣を薄く。千早は引き攣りつつ、立ち上がって一呼吸。「ちはや」の文字が入った襷を締め直す。
綾瀬は―― ”感じ”のいい選手特有のお手つきは多いけど じつは札の場所が混乱しての お手つきは多くない あるんだ綾瀬には かるたにおいて じつは”感じ”より大事かもしれない才能が―― 忘☆却☆力
太一はミスもなく、取りこぼしもなく、良いかるたを取っている。しかし、3枚差が縮まらない。
新の集中を 鋭さを 正面から受け止めるな おまえがどんなにすごかろうがどうでもいい 新なんか どうでもいい
周防の「勝ちも負けもどうでもいい 手放せ」のことを考える太一。
執着を手放せ どうでもいい
次々浮かぶ周防の言葉。
あ でも 君はぼくの弟子じゃないか
ほんとの君はさ
千早は敵陣右下段から一字決まりを抜く、白波会仕込みの攻め。「ほ」札を手にする千早を、太一が見る。
勝ちも負けも どうでもよくない どうでもよくない
千早の送り札は「せ」。狙われるのが分かっているので、結川は焦る。必死に食らいつくが。
ああ このレベルで競い合っていけたなら 若宮さん以外とも競い合っていけたなら 私だっていつか 神様の列に
千早が敵陣の「たご」を取って勝利。札を引き上げ、すぐさま扉の窓に張り付く。
太一と新の試合は、太一が「ふ」「ちぎりき」「せ」の三枚、新が「ちは」一枚。
memo
クイーン位挑戦者は二連勝した千早に決定。札との繋がりについて、詩暢は絹糸のように繊細な線というイメージなのに対し、千早は強欲な性格を表すような太い線、しかもガテン系でショベルカーでごりごりと。詩暢が次に対戦する相手が決まる試合中、雑事に呼び付ける受付はどうかと思う。現実にそんなことするか?
太一と新はお互いに自陣はきっちり取っているので、新は敵陣を抜けず「ちは」を送る機会が無かったらしい。思えば結局、千早の試合で「ちは」が読まれることなく終わってしまったな……。
読まれた札は「こころあてに」「わびぬれば」「たきのおとは」「ほととぎす」「もろともに」「みよしのの」「このたびは」。千早が勝利を決めたのは、富士山の「たごのうらに」。
千早の次の試合は、いよいよクイーン戦。千早の高校三年次戦歴をここでまとめておく。
全国大会予選 決勝リーグ
- 朋鳴 名並 23枚差
- 冨原西 須田
- 北央 木梨浩
全国大会団体戦
- 一回戦
- 二回戦 石造
- 三回戦 千葉情報国際 アンソニー・ソーブ
- 準々決勝 福岡 筑豊女学館
- 準決勝 静岡 富士崎 日向良彦
- 三位決定戦 福井 藤岡東 綿谷新
全国大会個人戦A級
- 一回戦 大下 油井 15枚差
- 二回戦 宮山 波川 18枚差
- 三回戦 石造 佐藤 12枚差
- 四回戦 京都・津咲 若宮詩暢 ●7枚差で敗退
名人位・クイーン位挑戦者決定東日本予選大会
- 一回戦 速水節奈
- 二回戦 桜沢翠 2枚差
- 三回戦 立川梨理華
- 準決勝 山城理音 1枚差
- 決勝 田丸翠 差は4枚前後? 東日本代表に決定
名人位・クイーン位挑戦者決定戦
- 一試合目 結川桃 7枚差
- 二試合目 結川桃 4枚差 クイーン位挑戦者に決定