予選第2試合目の読手は、牧野美登里六段。周囲の誰もが、身体がよく動き、音の反応も良く、一試合目で地力を見せつけた千早が優位と見ている。
最初の札は「おくやまに」。一戦戦って千早が「おおえ」と「おく」が得意と気付き、結川が千早陣から両方ぶっとばした。続いて「やすらわで」「あさじうの」も結川が取る。
出札が悪いだけだが、原田や猪熊が心配していることがある。次に読まれたのは「ゆうされば」だったのに、千早は「いまは」に反応。牧野の読みは癖があり、「ユウ」が「イ・ユウ」に聴こえたりするのだ。千早が動揺しているところで、再び「ゆ」の「ゆらのとを」。結川はこれで五連取。
「ひさかたの」で千早がやっと敵陣右下段から一枚取るが、それは結川にとって「取らせる札」。次はS音で敵陣に手を伸ばすが、どの札かを上空で待つ隙に、手の下から結川に攫われた。まるで若宮のようだと、千早は感じる。
反射が止まらない
結川に自陣の札「たごのうらに」「なつのよは」を飛ばされ、原田が「たご」を拾って千早に渡してくれる。原田の表情は、周囲が青ざめる程、恐ろしい形相。
16歳の君にあのとき言った言葉 忘れたわけじゃないだろう? ”速く取るのをやめなさい”
間下会長が若宮に話し掛け、再来年からクイーン戦は三試合から名人戦と同じ五番勝負になったことを教える。
「5試合 クイーン戦戦うならどっちがいい? 結川さんと綾瀬さん」
memo
クイーンとの練習の成果で、持てる力以上のものを見せ始めた結川。第6巻第30首にて原田先生が千早に言った「速く取るのをやめなさい」が再登場。確かに最近の千早は、第34巻の音声データの話以降、第177首で須藤に「速さを磨きたい」と言ってみたり、理音との試合、猪熊と練習をし、「感じ」勝負路線に走っていたように思う。一戦目でそれを実践して勝利したが、S音を聞き分けて即座に手を伸ばすのではなく、あの時学んだ「読手の呼吸に合わせてぴったり取る」を実践すべきが今だ。そうなれば詩暢も、千早と戦いたい、と思ってくれるだろうし、良い勝負も期待出来るのではないだろうか。
牧野読手といえば、鼻濁音。若い頃の原田が苦手とし、猪熊もクセを指摘し、千早も実際に聞いて戸惑っている。彼女の発声は「感じ」の良い選手には相性が悪いらしい。しかし、専任読手音声データでは気付けなかったかもしれないが、千早は何を今更?
と思ったら、彼女が初登場した第22巻第116首の前年度挑戦者決定戦では、千早は周防と窓の外から観戦しており、室内に入ったのは恐らく終了間際。二度目の登場は、第33巻第169首の千早三年次の全国大会個人戦で、千早は敗退直後に爆睡し、室内に入ったのは途中から。西田の身体を張った取りに気を取られ、まともに聞いていなかった模様。
登場した札は「おくやまに」「やすらわで」「あさじうの」「ゆうされば」「ゆらのとを」「ひさかたの」、S音で読まれたのは恐らく「しのぶれど」、空札で「はるのよの」「ありあけの」「やまがわに」など。
第38巻終了。袖の歌は第195首より「みかの原」。帯宣伝は「約束の場所へ。」で、巻末四コマ漫画は筑波宅男子部員パジャマ会、花野宅女子部員パジャマ会。