1月3日、千早が初詣の際に新と電話した後の様子が、テレビで放映された。太一母がそれを見て、周防から聞いた「核」の話を太一にする。
おれじゃないことだけはわかる 千早の「核」…
千早は大江宅を訪れ、着物用のケープと裏起毛足袋を借りに行く。
「応援に行けませんけど 私の全部で千早ちゃんを守りますよ」
千早は大江に読手音声データを集めてくれた礼を言い、ずっと聴いていると話す。
「今度の読手の五十嵐さんと牧野さんと芹沢さんと ときどき九頭竜さん混ぜて 気分転換しながらぐるぐる」
大江は驚きをもって千早を見る。
睡眠時間は5時間 受験勉強9時間 かるたを6時間 今日だって千早ちゃんはかかとをつけて歩かない 私には聴こえない音 私には見えない札を 追って 追って 高速で回転して――…
それは、ぶれずに回る駒。大江は受験生ながらも、千早の応援に行くことにした。
大阪の百貨店では、スノー丸のキャラクターショップが期間限定で出店しているが、売り上げが芳しくない。知名度の上げ方を知っている若宮のことを、グッズ担当者は改めて思い浮かべる。ちょうどそこで、千早がテレビに映し出された。
「よかったら試合を クイーン戦を見てください どんなに言ってもわかってもらえない 私が若宮さんの最高の強さを引き出して そのうえで勝ちますから」
若宮も自宅で見ていた。
「言葉は大事にせんと 言った瞬間わかるのは それがないことや 勝つ勝つ言うんは負ける人や」
若宮祖母はまたもや動きやすさを考えていない、豪華な着物を用意していた。若宮は笑って応える。
「ええなあ これ着たら日高屋さん 喜んでくださるやろなぁ」
若宮母はそれが本心ではないと見抜く。
詩暢の真意はイケズでねじ曲がる 言ったらわかってしまうから 『こんな着物 着とうない』 『おばあちゃんは うちのこと 全然見てくれへん』
若宮母は若宮祖母に申し出る。
「うち… うちと詩暢で 春になったら――……」
1月4日、千早と母、花野、田丸は、新幹線で現地へ向かう。車内の電光掲示板では、大雪の予報が流れている。
皆の宿泊先かつ決定戦前夜祭が催されるホテルでは、かつてのクイーンや挑戦者が談笑中。
「あれで一気に緊張しちゃったのよ いまでも思うわ 浦安の間にはいるまで クイーンの目を見ちゃいけなかった」
その頃、大津駅で若宮と遭遇した千早は、気付かぬうちに唇を噛み締める程に硬直。心臓は音を立てて鳴っている。ホテルに到着し、前夜祭の会場に入って皆に声を掛けられ、肩に重みが圧し掛かる。
同じく緊張した様子の新が、千早の肩に手を伸ばす。
「主役とか 緊張するなー 千早!」
千早の緊張が解ける。大江の言葉通りであった。
大丈夫 千早ちゃん 緊張なんて十二単です いくら重ねたっていいんです 大丈夫 紐一本で ほどけるんですから
memo
決戦前々日から前日までのカウントダウン。受験も直前。なのに、受験生の家に押し掛けて、コートを用意させる千早。しかし、大盤係のことといい、防寒着の準備も悪過ぎるし、読手音声データを揃えてくれたお礼も今頃になって言う? 流石にメールか何かでは伝えてあったと思いたい。かなちゃんの独白で、第11巻第63巻で説明した「ちはやぶる」の、高速で回転する駒が登場。
詩暢の着物はまた足枷になりそうだが、問題点は言葉にしないと伝わらない。祖母はかるたの競技者ではないし、察して欲しいと願うばかりでは無理。まさに「言葉は大事」だよ。母の申し出の語尾は描かれていないが、ついに屋敷を出て自立することを考え始めたと推測。