大江は自宅で祖母の古希祝いの高級布団を被りながら、清少納言の枕草子をそらんじていた。
「ただ過ぎに過ぐるもの 帆かけたる舟 人の齢 春夏秋冬…」
母は呉服普及のために「大江杯」を企画するなど奮闘中。
跡継ぎとしての 私の役割は……
二年生三年生部員達で、太一の残念会を企画。しかし、太一も他三年生も受験を控えており時間が無い。そこで大江が提案したのが、高級布団での癒し。
図書室で勉強する太一に、千早が何やらジェスチャーで訴えている。周りの生徒達は二人のやり取りを見て、太一が理解出来たことに感心し、噂する。
「お似合いなのに 結局つきあったりしなかったよね―― 瑞沢七不思議 二人ともずっとフリーでさ」
部員達が、大江宅から布団を運び出す。真島邸に到着するが、千早が太一に確認していた通り、太一はまだ帰宅していない。企画を聞いた太一妹の賛同を得て、太一の部屋に入り、布団を取り替えることに成功する。
太一が帰宅し、皆で真島邸を出て駅に向かう途中、太一が大江に決定戦で新の袴を直した件についての礼を言う。
「大江さん わかんないだろうけど おれ ホント性格悪くて 思ったんだ あのとき スルーしとけば 新はかるた取りづらくなって 自分に有利だなって」
驚く大江に構わず、太一は話を続ける。
「でもすぐ 大江さんが目に入ってさ おれの友達すごいんだぜって 袴すぐ直せんだぜって 自慢したいみたいな そんな気持ちでさ」
大江はその言葉に涙ぐみつつ、決定戦の時の千早の涙を思い浮かべる。大江が太一に小声で訊く。
「真島くんはいまでも千早ちゃんを好きですか……?」
前方を歩く千早に目をやり、太一は静かに答える。
「もうよくわからん… でも だんだん薄れていくんじゃないかって思うよ」
駅へ行く皆と別れ、千早は自宅へ走って帰る。
大江は好きな古典を学びたくて文学部を志望していたが、呉服店を守るのが自分の役割と考え、経済学部の参考書を開き始めた。一晩限定で取り替えられた高級布団を被った太一は、感触の違いに驚愕中――
memo
大一番が終わってのインターバル。図書室での噂話と、太一が大江に小声で話した内容は、太一と千早それぞれの耳に届いているような描写でもあり。太一の言葉が聞こえたらしき千早の周りには、黒い紅葉などの葉。また、一人だけ地元の千早はその直後に皆と別れるが、逃げ帰ったとも思える流れ。
かなちゃんは太一に友達と言って貰えて嬉しかったのだろう。しかし、経営が苦しいことは入学早々から自分でも言っていたのに、何故私立大志望なのか。