クイーン戦側は空札が続く。千早は毎回立ち上がって確認。「さびしさに」で二人とも手を伸ばすが、タイミングはセイム。飛んだ札を若宮が拾うが、千早は強気に札を送る。更に札を移動し、中央に「す」札を置き、軌道の先にある「しの」「せ」を狙う作戦だ。若宮がそれに苛立つ間に、千早は怒涛の連取で初のリードを奪う。
若宮の足が攣った。千早が心配して声を掛けるが、若宮は跳ね除け自力で治す。札の神様が見守っている。
よかった あの子のおかげね 試合続けられそう よかった よかった おおきに
畳に並ぶ札を見て、はっとする。
わかっとった わかっとった 札の中に小さな神様なんておらん みんなの声は 全部 うちが思ってたこと
解説の伊勢先生が後悔を語り始める。若宮に年上の選手ばかり当てて、友達と楽しく取るかるたを否定していたこと。女性選手が五試合も戦うのは無理と決めつけ、話を聞き入れようとしなかったこと。
「でも 若宮さんと綾瀬さんが 示してくれてる そんなことないって」
若宮がポーチに仕舞っていた襷を、千早に差し出す。それは前年のクイーン戦の時、千早が大切にしていたハンカチを割いて作った急造の襷だった。
「大事なもんを 長い間借りててごめんやで おおきに 千早」
千早は黙ってそれを受け取り、襷を着ける。
示そう 私たちの 鍛えてきた 気力と体力を
次に読まれたのは、浮き札としていた「す」。札が折れる程の取りはセイムで、若宮がすんなり認め、千早の取り。
示そう 二人で 一人より 友達と一緒に頑張った方が 強くなるって
白熱した戦いが続く。
示そう 示そう これほどまでに 自分を信じられること
控室で見守る千早応援団。太一は口元を覆って見入る。
お願い 誰も 息をしないで
memo
第五試合目中盤、前回は名人戦だったが、今回はクイーン戦側。スピーディーで迫力ある展開。ここに至るまでに細々としたトラブルが多かったが、やっとすっきり読めた。「お願い 誰も息をしないで」はご存じ、第一巻冒頭にある独白。
読まれた札は「きみがため・お」「はるすぎて」「さびしさに」「おくやまに」「あわじしま」「いまこんと」「あまのはら」「すみのえの」で、以降は不明。最後のページでは、詩暢が10枚、千早が8枚。「ちは」札は詩暢陣の右下段にある。