新に対して「名人にはなれない」と吐いた周防。太一は彼が以前、千早にも「クイーンになれない」と言ったことを覚えている。周防は心の中で「また真島くんに怒られる」と謝りつつ、鬼の形相。
言葉でも 試合でも曲げてやる
新は周防に自陣を守らせた上で攻める作戦だったが、周防は新の陣からきっちり「おぐらやま」を取る。周防は「わ」から始まる札を続けて送ったり、空札なのに手を出して新のお手付きを誘おうとするなど、「ミスをさせるかるた」の本領発揮。
バカだな 話し合ってわかり合おうなんて ぬるいこといってないで 殴り合おうよ かるたで 僕は僕のスタイルで 限界まで醜く取ってやる
心中で毒づきながらも、畳に這いつくばるようにして札の配置を確認する周防。
須藤は全盲でかるたを教える先生を訪ねた際、目隠しした上で対戦したところ、暗記は出来ていても距離感があやふやで苦戦。先生は声が大きく、目も大きく、かるたに夢中になることで痩せて結婚まで出来て、と周防とは対照的な人物だった。
どうやったらしがみついてもらえるだろう どうやったら努力してもらえるだろう あんな かるたが好きじゃない人に
周防は突然、新を参考に、これまでにしたことのなかった素振りをしてみる。二ヵ月も狭い定位置で練習して来たのに、二試合で新に追い付かれた。が、そもそも二ヵ月しか練習していないのが間違いだった。
サラブレッドが こんなに愚直にやってきてるんだ もっと目を使え まだ見えてるんだ 体を使え
新は立ち上がって一息。作戦を巡らせる。
真っ向勝負だ 周防さん 多分あなたは おれに嘘しか言ってない あなたの嘘に あなたが気づいてない 本当のことを言わせてみせる 這いつくばって札の確認をする人が かるたを嫌いなわけがない
周防は札の美しさに見入る。
見えなくなるのは いやだな
memo
五試合目中盤、周防編。ただでさえ小さい声の周防の言葉を、動画配信で拾ってくれているのかと疑問だが、太一は聞いている。つまり、他の視聴者も聞いているわけで、会場にいる観衆にも当然聞こえているだろう。周防にヘイトが集まっている描写は無いが。
試合は最後に飛んでいる札が判別付かないので除外すると、周防14枚、新が17枚。最後のページでクイーン戦側がやっと出て来るが、千早21枚で詩暢17枚か。残り札が多いのは、空札が七枚も続いているせいらしい。
読まれた札は「おぐらやま」「わびぬれば」「わがいおは」「かぜをいたみ」「かぜそよぐ」。他に新に纏わる「わたのはら・や」「わたのはら・こ」もクローズアップされている。表紙に描かれている札は、上から「たちわかれ」「わたのはら・や」「ちはやぶる」「しのぶれど」「すみのえの」。