名人戦・クイーン戦のテレビ中継。細くて軽い身体だった若宮の武器である速さが鈍っている。一回戦は五枚差で若宮勝利。山本は落ち着いて若宮を見ていた。
ここに座るまで 若宮詩暢が怖かった 去年の強さの記憶が残って なのにどうよ! 今年のこの丸まりよう 怖くない この子だって人間だ 体調管理もせずクイーン戦に来る ただの子供だ
若宮はいつもはしない素振りを繰り返す。祖母から貰った豪華な着物が重いのだ。
若宮が五歳の時に母が離婚したが、出戻りの条件として若宮が習い事をすることになった。バレエや習字は合わず、トランプや百人一首の絵柄を楽しむような子で、ならばと祖母がかるた会を勧めたのだった。
二戦目も若宮は苦戦。札に届かず、空振りまでしてしまう。
「やっぱり身体が変わったのは大きいよ おれが見る限り クイーンの強さは”感じ”の良さもあるけど 一番はボディコントロールの良さだ それがいま狂ってる」
太一の見立てに対し、大江は違う感想を持つ。
「でも クイーンは 刃物を研ぐような素振りをしますね」
若宮本人は今更ながら思う。
重い…… あ 重いんは着物やない 身体や! アイス食べすぎたんやー
山本に取られてしまった札に目をやる。
ごめん ごめん こんなんやってたら嫌われてまう
小学生の若宮は休み時間もずっとかるたを見ているような子で、ある日嫌がらせでかるた百枚をバラバラに隠されてしまったのに、ロッカー上の段ボール、ボール入れ、植木鉢の下、はたまた電灯の上などから、見事全て探し当てたという出来事があった。
どうしてかはわからへん 私がかるたを好きなように かるたが私を好きなんや――
若宮は得意札「しのぶれど」で、この日一番の取りを見せる。千早は気付いた。
私 いままで―― 詩暢ちゃんは 札のはじ一点を狙って払ってると思ってた そうじゃない 刃物じゃない 札の縁 全部の縁に指がいくように 糸をつないでる――
memo
クイーン戦テレビ観戦。読まれたのは「こころあてに」「あさぼらけ・あ」「ほととぎす」「しのぶれど」。