千早と山本の試合を観戦している太一は、信じられないといった表情。
怖え かるたって…… あんなに勢いに乗ってた千早が萎縮してる 硬くなってミスが出る 気持ちの強さがこんなに大事なんて 気持ち 気持ちの強さ――
もめることばかりが目立つ山本だが、西田は知っている。
ユーミンのかるたは ほかの選手より すこしだけ丁寧で すこしだけ正確 その「すこしだけ」を手に入れるのがどれだけ大変か ここにいる人間ならみんな知ってる
千早は四枚差で敗戦。終了後、身動き出来ず、声も出ない。
北野先生が山本の勝利を称えに来る。期待を掛けられ過ぎるのは重いが。
でも…… この期待がなかったらとっくに逃げてた
千早が悔しそうな表情で会場から出て来た。太一が声を掛けるが、走って逃げる。一連の行動を見て、山本は決意。
逃げられない 逃げない
千早は太一を振り切って、控室クローゼットの中に立て籠もってしまった。そこに、「早く敗退した方が坊主になる」という千早との賭けに勝った須藤がやって来る。太一は西田と駒野との三人で坊主になるから千早のことは勘弁を、と須藤に願い出るが、そこに原田先生登場。原田は自身が須藤に勝ったら反故に、という約束を取り付ける。
千早は試合内容を後悔し、クローゼットの中で泣いていた。一時間が経過。果たしていつものように疲れて寝ているのか。西田は同じかるた会の山本を応援するため、試合を見に行くことにした。大江と駒野も一緒に見に行くようにと太一に促され、また太一の沈んだ表情を見て察し、クローゼットの前には太一だけが残った。
寝てなんかない 寝られるわけがない
太一に新からメールが届いた。
「千早 新 3回戦も勝ったって」
千早が、どういうことだと抗議する意味で、クローゼットの扉を激しく叩いて来る。
「おれと新 最近メル友だもん 予選終わったら 千早にもメアド教えようと思ってたよ」
太一はメールを見ながら言う。
「すごいよな あいつ……」
新からのメールには「千早はどう?」ともあるが……。そこに、原田と須藤が四回戦で当たることになったと、大江が知らせに来た。太一は千早に声を掛ける。
「千早 出てこいよ 行こうぜ応援 千早」
反応は無い。
わかるよ 必死でやって負ける悔しさも だれにも会いたくない気持ちも わかるのに おれの言葉じゃ なんにも届かない気がする 新じゃないとダメな気がする
そこで扉が開き、もたれかかっていた太一はクローゼットの内側に引っ繰り返ってしまった。
「なにやってんの…… たっ 太一…… 太一こそ見てないと 原田先生と須藤さんの試合 来年はA級でみんなライバルでしょ? 応援じゃなくて 太一 見てないと」
千早が泣きながら太一にそう叱り飛ばすのを、太一は千早を心配して残っていたのだと、大江が咎める。
「ああ そうだよね ごめん ごめん 行こう 太一」
立ち上がって行こうとする千早が、太一の手首を掴む。太一の心も奪われた。
ああ ダメだおれ 千早が好きだ
千早は窓の外から試合を見ながら考える。
モメられるのがいやで 必要以上に速く取ろうとした リズムが狂って集中できなかった そういう強さがあることを知らなかった
太一が上着を脱ぎ、半袖姿の千早に貸してくれる。大江も皆も、寒くても外にずっと立って応援してくれていたのに。
「ありがとう ごめんね……」
千早は涙を滲ませる。
『一枚も取られたくない』 私きっと 自分しか見えなくなったときに負けてた
原田は須藤相手に三枚差で勝利。千早の坊主は回避されることになったが、原田は自分の勝利にのみ集中していて忘れていた模様。原田は千早に厳しく注意する。
「千早ちゃん さっき試合のあと きちんと礼をしなかったね いけないよ どんなに悔しくても礼を大事にしなさい」
反省する千早。その原田も準決勝で敗退。東日本代表者は坪口と山本に決まった。
長い一日が終わって 敗者の一年が始まる
memo
東日本予選、千早の試合終了。登場した札は観戦中に読まれていた「こころあてに」のみ。太一は千早に新のメールアドレスをまだ教えていなかったという。好きな気持ちを認めたり、上着貸したり、いろいろある回だ。
千早の高校一年次の公式戦はこれで終わりなので、戦歴を纏めておく。
全国大会予選
- 栄光大付属
- 秀龍館
- 華咲学園
- 準決勝 冨原西 佐野
- 決勝 北央 須藤暁人
全国大会団体戦
- 佐賀・武知
- 大戸川添 ●棄権
全国大会個人戦A級
- 鹿児島 花本 10枚差
- 京都津咲 若宮詩暢 ●20枚差で敗退
埼玉大会A級
- 金井桜 ●6枚差
名人位・クイーン位挑戦者決定東日本予選大会
- 立川梨理華
- 山本由美 ●4枚差で敗退