富士崎高校での合宿二日目。千早はヒョロに言われたことが気に掛かっていた。
真島は 綾瀬がそばにいないほうが 強いと思う
試合は四試合。桜沢先生が作った対戦表は、千早と理音が三戦。がっくりする理音に、満面の笑みの千早。
「山ちゃん 桜沢先生ってすごいね だって 同じ相手と連続3試合なんて クイーン戦の練習ってことだよ!」
桜沢も呆れる程に前向きな千早だが、怪我のため左手しか使えないので苦戦。それでも試合を意味のあるものにしようと取り組む。千早は理音に質問する。
「山ちゃん ”感じ”がいいって どういうことだと思う? 強い人と当たって 勝っていきたいのに まだ『なんとなく』でしか取れてない気がして」
理音は真剣な表情になり、唾を呑む。「わかんないよ」と言い、立ち去った。
二試合目の読手は上手くない。千早は左手を使いこなし、取りが速くなっている。でも、9枚差負け。
三試合目で、千早は気付いた。
同じ相手との3試合って…… 配置が似るから 記憶が混同しやすいんだ 暗記が残ってミスが出る 3試合目で疲れも出る 集中だ集中!!
桜沢が来て、千早の胸元をぐっと起こす。
「私は 試合中はアドバイスしないけど一つだけ 姿勢を保ちなさい 歴代の名人・クイーンは皆さん姿勢が良い 皆さん本当に美しかった 速く取ることより自然なフォームで美しく取る どんなに疲れててもそれができるように」
クイーンを引き合いに出したことに、理音は驚き焦る。
千早は姿勢に注意しながら構える。
自然なフォームでいつでも美しく―― ああ かなちゃんがずっと言ってきてくれたこと――
千早は七枚差でまた敗戦。終了後に理音が口を開く。
「私は…… おばあちゃんの読みのときはまたちがうけど 普通の人の読みのときは…… 高いか低いかを聴いてると思う 決まり字のまえの一音の高低――…」
高低。
「かささぎの」「かくとだに」 「もろともに」「ももしきや」 「つきみれば」「つくばねの」 「ゆうされば」「ゆらのとを」 「しのぶれど」「しらつゆに」 言葉にするとそうなるの? 言葉にするとそうなるの? つかめそう
四試合目。千早の正面に座ったのは太一。
合宿が終わり、帰りの電車内。太一が勝ったので、千早は拗ねている。
太一 太一 知らない人みたいだった
太一は千早に宣言。
「右手 早く治るといいな おれ この秋は 右手のおまえに 公式戦で勝つ」
理音は桜沢に、何故いつでも試合出来る瑞沢同士の対戦にしたのかと訊く。
「彼 自信をつけると化けそうだったから そしてきっと 綾瀬さんにしかつけられない自信があるわ」
memo
富士崎合宿参加中の千早と太一。練習試合で読まれたのは「かくとだに」「わがいおは」「むらさめの」「たちわかれ」「はるすぎて」「おおけなく」「ゆらのとを」「なつのよは」「あきのたの」「みちのくの」「やえむぐら」。四試合目は太一のため。太一が強化されつつある。