ロビーでばったり出会う千早、太一、新。揃って原田先生の控室に走るが、原田は休息中。妻が静かに付き添っているのを見て、三人はそっと後にした。咳が酷い新は、ロビーで観戦することに。
名人戦第五試合目、最終戦。周防は髭を剃り、髪を束ねて現れた。原田に深々と礼をする。北野先生が語る。
「礼儀正しい人間と言うのは やっかい…… 敬意は畏れです 周防くんはもう 原田に油断しない ほら あの態度 どうも原田は 名人を ”名人”にしちまいましたね…」
原田は一枚一枚丁寧に取る。千早は涙。
私 周防さんに傷つけられた気になって 目のこと先生に告げ口みたいにして 周防さんのことはずっと 暗い気持ちとセットで 原田先生は 全部 真正面から受け止めて戦ってるんだ
原田は息を切らしながら考えていた。
私も若かったらよかったな まあいい だれか 若い者が 今日のことを 役立ててくれるだろう
五試合目は12枚差で周防の勝ち。三勝二敗で周防名人の防衛となった。周防は五連覇で引退すると公言していたので、彼を快く思っていない関係者達はホッとしたと口々に言う。太一も思った。
ホッとする… 確かに 原田先生の執念でさえ 突き崩せなかった名人…… 早く 伝説になってくれたほうがいい
周防はインタビューで「疲れました」と言いながらも、対戦を頭の中で回想する。
楽しかった かるたが 楽しかった
周防はかつて公言したことについて、質問を受ける。そこで現れた新が、大声を出して遮った。
「名人 周防さん やめないでくれ 周防さん やめないでくれ 名人でいてくれ おれが倒しに ここに来るんだよっ」
皆が唖然と見守ったり、新の暴走を止めたりする中、新は言い切った。周防が口元を歪めた。
「じゃあ もう一年 おまけ」
引き攣る関係者達。気持ちが熱くなる千早。笑う原田。新は一礼して退室した。太一は一人、暗い顔で立ち尽くす。
観戦を終え、新幹線に乗る千早達一行。座席に落ち着き、駅までは一緒にいたのに、太一の姿が見えないことに気付く。翌日に近江神宮である試合のために残ると、大江だけが聞いていた。千早、驚愕。
ぬ け が け 太一~~~!?
memo
名人戦五試合目。あっさり描写で決着。登場した札は一字決まりの「むらさめの」のみ。大会後に名人に挑戦状を叩き付ける新だが、新のかるたに興味無さげだった周防がよく呑んだね。淡々としている印象だったのが、向かって来る姿に闘争心を感じ、掻き立てられた?