運命戦。原田先生は周防に送った「なにわえ」が出ないと予想しつつ、手元に残した「なにし」に迷う。「なにし」は語呂合わせで、名人の札とも言われている。一旦立ち上がり、場の空気を拾って呑み込む仕草。千早が見入る。
原田先生がよくやってた いつもの… いろいろ経験してきたんだ
読手が口を開く。原田の方に、周防の手が伸びて来たような感覚があった。しかし、空札。周防は実際に動いてはいなかった。次の札でも、周防は動かない。
向かってくる 気持ちが… 気持ちが この札に… ”名人”に執着するのは 私だけじゃないってことか
周防がフッと動いた。原田は自陣の「なにし」を押さえたが、読まれたのは「なにわがた」。原田はまさかのお手つき。
周防さん まさか ここで こんな場面で ”ミスをさせるかるた”を 原田先生を誘って引っかけた
食い入るように周防を見詰める太一。絶望しているような表情の千早。
千早はロビーに出て一人座り、怒りに震える。
どうして どうして 私 男子じゃないんだろう 私が 私がやっつけたい 倒したい あんな人が名人なんて 許せない 私が大好きなかるたの世界で 一番強いのがあの人なんて
若宮のインタビューが始まった。以前は心が篭らず適当だったのに、と知る者が驚く話しぶり。
「今年は すこし側にいる人のおかげで勝てました 来年のクイーン戦が すこし楽しみです」
千早が襷に仕立てたのは、ダディベアの生サインが入った大切なハンカチ。若宮に気持ちが伝わったのだ。
私が戦うのは 私が大好きなかるたの世界で 一番強いもう一人 それだけだ それだけでいいんだ
千早は歯を食いしばって泣く。
名人は 名人のことは
太一が千早の姿を見つけた。千早は咳の音に振り向く。新が会場に駆け付けたのだった。
memo
緊迫感溢れる運命戦で読まれた空札は「しのぶれど」「こいすちょう」、最後に残り原田先生がお手付きしてしまった「なにしおわば」と「なにわがた」。試合後のロビーでの場面、「名人は」で太一が現れ、新アップのコマを挟み、「名人のことは」のコマはまた太一。第24巻第124首の札ボーイ札ガール話での想像シーンと合わせると――