長崎県大村市。周防従兄が伯母の兼子に動画配信を見せるが、彼女の目には画面の両隅辺りがぼやけている。番組の解説担当の山城今日子専任読手が、周防が読みの録音をさせて欲しいと頼んで来た時のことを話している。周防がかるたを続けている理由を聞き、兼子ははっとする。
「かるたでなら ひとかどの人間になれるんじゃないかと思って」
周防が子供の時に預けられた家で、周防の世話をしてくれた伯母。和菓子工場でパートをし、家の畑仕事も手伝っていた。彼女はじわじわ視野が狭くなり、見えなくなっていく病気。周防が上京する時、そんな伯母が涙ながらに送り出してくれたのだ。
久志 なんでもいいけん ひっ… ひとかどの 人間になんなさい……
可愛らしい先輩につられて競技かるた部に入り、一年でA級まで昇級。しかし、伯母と同じ病気になってしまった。先輩が勧誘時に教えてくれたのは、知ることで光でいっぱいにも闇でいっぱいにもなる歌。
あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
読手がふうっと息を呼吸をした。原田先生が狙っていた敵陣右下段から、周防が音になる前の呼気で判別して払った。後半は決まり字が短くなるので、周防有利。
”感じ”って すごい言葉だ 真っ暗闇の中で 音が光って感じられた ひとつひとつちがう光を感じ取る それがなにより大事な世界が 競技かるただった ここだ この世界で一番になろう ひとかどの人間になろう
しかし、名人になって以降、退屈に感じることになった。仲間が強い周防との対戦を避けたがるのだ。25枚ではなく20枚で勝てるように試合してみた。次は17枚で勝てるよう、その次は相手に4回お手つきさせるよう工夫して。
かるたが好きなわけじゃない がらんどうだ おれは 続けるために だれかの情熱を食べるしかない がらんどうだ
周防のペースとなり、差が縮まる。原田先生は痛む膝を抑えながら、周防に引導を渡すべく対抗。
memo
周防の過去回想。「あいみての」は第23巻第120首で、白い鳩を眺める千早を見て、かなちゃんが詠んだ歌でもある。ところで、今大会の予選を描いた第20巻第107首にて周防がバイクを運転しているが、視界には思いっきり影響がありそうだよね。試合で読まれたのは「せをはやみ」「たきのおとは」「つきみれば」「あらしふく」など。