名人位・クイーン位決定戦。観戦席に新の姿が見えない。緊張気味に電話をする千早。電話の相手を察して、目を背ける太一。新は風邪で寝込んでいた。新と話すと「好きや」の言葉を思い出し、顔が赤くなる千早。
好きだって言われた日から 指先とお腹がいつもあったかくて 変なんだよ 新のせいで変なんだよ もし会えたら 全部燃えそう
原田先生は挑戦者なのに十度目の防衛に来たような貫禄。一方、周防は髪も髭も伸び、素浪人のような風情。若宮はスノー丸ガールフレンドの髪型で本気モード。猪熊は優しい落ち着いた顔。
千早が廊下に出ると、電話をしている周防に遭遇した。暗記時間残り二分なのに。原田先生は本気なのに。
いやだ いやだ あんな人が名人なんていやだ 原田先生が勝っても もし負けても 周防さんは引退だ よかった
よかった?
いやだ 近江神宮でこんなこと思うの? 私 いやだ
観客向けに札の配置をボードに貼り出す係は、同じかるた会の後輩や友人に頼むことが多い。原田先生は坪口、周防は須藤、猪熊には桜沢先生。若宮には昔所属していた会から結川が派遣された。千早はその立場を思い描く。
私… 私が挑戦者になったら だれに頼もう……? かなちゃん? 菫ちゃん? 男の子でもいい? 肉まんくん? 机くん? 筑波くん… 太一…… ああでも 太一は 名人戦に出てるかも
千早は想像する。太一と新、自分と若宮が、それぞれ向かい合って座っている光景を。
夢なの 憧れなの この場所は
序歌が始まった。
ここで見るのは 最高のかるたであってほしい 最高の
一枚目を取ったのは、原田、若宮。太一と須藤が周防を見て感じたのは……
ない… 名人戦なのに 勝つ気がない
memo
舞台は近江神宮、名人位とクイーン位の決定戦。新って風邪っぴき体質? 小学生の時といい。登場した札は、陣決めで使う「あきのたの」と「なにしおわば」、「よをこめて」と「めぐりあいて」、一枚目の読み札「おぐらやま」。