名人戦挑戦者決定戦。千早が新に視線を送ると、目が合った。胸を高鳴らせる両者。千早は隣に座る太一を見る。太一は厳しい表情で前を見据えている。
いろんな気持ちがあるから 100パーセント だれかを応援するって難しい……
私も大人になったなー、と思う千早。
小学生の私だったら やっぱり新なの あの日話した夢の舞台に 一番最初に手をかけるのは
千早は小学生の自分が無邪気に新を応援する姿を想像する。
第一試合でかるたを混ぜながら、原田先生が新に話し掛ける。
「しかしまさか メガネくんとこうして戦う日が来るとはね お祖父さんの綿谷始永世名人とは 若い頃一度試合をしたことがあるんだ 強かった…… いい思い出だ 君は若いからよくわからんだろうが 君と戦えることはこの上ない喜びだ 今日は全力でいかせてもらうよ」
一枚目。空札なのに飛び出し、身体ごと突っ込み、威圧感を与える原田。二枚目は伸ばした手の進路をスムーズに変え、「よし来た」の大声と共に払う。千早は新のかるたについて、「水が流れるようなイメージ」と原田に伝えていた。
じゃあ せき止めてみようか 初動で 体幹ごと敵陣へ 相手を牽制し 制空権を得て
原田が上手さで連取したところで、新が札を移動。すぐにその札が出て、新が取った。もう一枚連取。坪口は見入る。
原田先生は細かく綿谷くんの研究をしてきた でもそれは「過去の綿谷くん」にすぎない 新しい面を見せられたときどうするか……
新は札を拾いに行きながら、小学生の時に白波会で歓迎された時のことを考えていた。
原田先生にも おれの気持ちはきっとわからん 東京に来て…… 友達ができるかも かるたができるかもわからんかった 「歓迎する だれがなんと言おうと 歓迎する!!」 自分のまんまで 生きていいって 言われたみたいやった
新はきびきびと動きや、原田が飛ばした札も率先して拾い、周囲にも好印象を与える。が、札を移動させて原田を苛つかせたかと思うと、皆が驚く速さで札を取った。坪口も太一も息を呑む。
来た 練習でだれも再現できなかった超加速
原田も茫然とする中、札を拾う新。
嬉しい 原田先生と戦えて嬉しい 原田先生が強くて嬉しい でも 勝つのはおれや
memo
東西の代表による名人戦挑戦者決定戦。紅葉背景と共に描かれた千早の視線の先は決定戦の会場だが、新も含めて選手は居ない。決定戦という舞台に恋い焦がれているような描写か。新の回想では第1巻第3首、小学生時に白波会を訪れた際に原田先生に言われた「歓迎する だれがなんと言おうと 歓迎する!!」では描かれていない新の表情が分かる。
扉絵は「わたのはら・や」と「よもすがら」を払う新。試合で読まれたのは「あさじうの」「なにしおわば」「ほととぎす」「ありあけの」「かくとだに」「あさぼらけ・う」「さびしさに」。