第170首 さよならが近いだけや

ちはやふる ちはやふる_高3 漫画
漫画「ちはやふる」の伏線や感想などの超個人的備忘録。あらすじの記述あり。ネタばれあり注意。

各階級決勝。A級は若宮と新の対戦。B級は富士崎の両国と藤岡東の松林滉、ヒョロと駒野の二試合。C級で大江、D級では花野が決勝戦に進出している。

宮内先生は花野の執念に驚いている。花野も心中で燃えている。

勝ちたい 勝ってC級に上がって 先輩の威厳を保ちたい

駒野はヒョロとの対戦を前に、大量のノートを見返す。

とうとうここまで来た B級決勝…… 勝つんだ 勝って伝えるんだ 僕の気持ちを たとえ たとえ相手が誰でも

千早は新に、眼鏡が無事か訊ねる。新は眼鏡を外し、「大丈夫や」と千早に微笑む。戸惑う千早。

どうしたの 新 さっきからずっと すぐ詩暢ちゃんとの決勝なのに

決勝は二階の浦安の間でA級とB級、朝日の間でC級とD級が行われる。戦闘モードに入っている大江と花野に力強く勧められ、千早は西田と浦安の間へ向かう。


若宮が新を煽る。

「意外なことやなあ 新が団体戦のチーム作って来るやなんて そんな余計なことやっとるから 千早に負けるんやないか うちより強いのに どうしたんや チームになんの意味があるんや?」

新はそれには答えず反撃。

「詩暢ちゃんこそ意外やったんやけど さっき千早と次はクイーン戦で戦うって約束してたな」

千早のことを認めたのかと訊かれ、否定する若宮だが。

うちやのうて この札たちが……

新はいつものアパートの部屋のイメージに浸る。大江は疲れも見せず連取。花野の対戦相手は、試合を流して終わらせようと手抜き気味。花野が真剣な表情で「ちは」を送るのを、筑波達は息を詰めて見守る。白波会の昇級条件は優勝のみなのだ。

大江母は花野母などから、袴を用意したいと相談を受ける。着付けが心配と話す母達に、大江母は一人でも着られると言う。

「人に頼っていては着られません 覚悟しなければ自分のものにはなりません」

花野は試合に集中している。

強くなるんだ 今日が終わったらもう「先輩たちが作ったかるた部」じゃない 私たちのかるた部だ

そんな花野を見て、涙ぐむ宮内。千早が高校一年の春に貼っていた、かるた部部員募集ポスターを思い浮かべる。

変わった… みんな変わった… これが綾瀬さんがあの一枚を貼らなければ存在しないものだったなんて

「ちはやぶる」が読まれ、得意札とする瑞沢の面々――駒野、大江、花野は漏れなく取る。

情熱の源泉

千早は目の前を跳ねて行った「ちは」札に驚く。拾ったのは若宮。村尾は取られた新に呆然。

取られた 完全にタイミングが合わんかった 当たり札に手は伸ばせてるのに下ろせてない

新はいつも通りに「あの部屋」にいる。しかし、今イメージしているのは、引っ越しの荷物が運び出されて玄関が開け放たれた部屋に、高校生になった新が一人きりで座っている姿――

さよならが近いだけや

ちはやふる
ちはやふる

memo

各階級決勝の始まり。扉絵は水に浸る新のイメージ。外れた眼鏡が、底に沈んで行っている。思えば、第32巻第166首で始まったこの日は、起床前で眼鏡を外している新から描写されていた。同時に、女子部員が眼鏡の話をしていた。前話では肉まんくんとぶつかり、眼鏡が吹っ飛んだ。要するに、キーワードは眼鏡だ。新の視力は小学生時点で0.03と非常に悪く、目の前の男子と千早を間違えてしまう程だった。眼鏡の着脱で見るも見ないも自由自在。わざわざ眼鏡を外すあたり、千早をまともに見たくなかったのだろう。個人戦に出ないと言ったのも、千早と当たりたくなかった故か。前話で千早の負けを確認してから勝ちを決めに行ったかのようだったし。

「ちは」札もわざと取らなかった? 新と「ちは」と言えば、第9巻第48首で想像上にも関わらず、自陣の「ちは」を周防に取られている描写が印象深い。更に記録を探ると、吉野会大会で「ちは」が読まれているが、新が取れたかどうかは不明。第21巻第111首の西日本予選では、村尾に取られた。第23巻第119首の挑戦者決定戦では、自陣に残したまま敗戦。高松宮杯太一戦でも読まれなかったと、第26巻第137首で回顧している。古くは第2巻第6首での小学校卒業式の日のアパートでも、千早が奪取。その回冒頭で描かれたチームちはやふるで三人揃って取れてたくらいか。実は、徹底的に「ちは」と縁がない新。

そして、いつものアパート部屋。第31巻第161首で二人が対戦した時に飛ばされた「やえむぐら」札の寂し気な描写がここで来た。イメージする時は小学生の自分達のままだったが、知っている千早はもう居なかったと気付き、新も卒業すべきだと考えが纏まり始めた、といったところか。

かなちゃん母の「覚悟しなければ自分のものにはなりません」も意味深。新の場合、他を置いてでも目指すべきは名人であろう。朝に管野先生から「おまえが狙うのは名人の座や!」と檄を飛ばされたばかりだ。もう一つ、恋愛心理を表現しているとされる紅葉背景で、第21巻第109首にて太一が千早を思い浮かべているのとは対照的に、新は名人のことを考えていたのも見逃せない。

尚、前年夏に新が「試合するときはいつもあの部屋(アパート)に帰るんや」と電話で言っていたのを元に、第17巻第93首で千早が三組の対戦を想像しているが、この話を以って今大会で全て再現された。つまり、あれは未来図だったらしい。試合中に読まれた札は「ひともをし」「わすれじの」「あさじうの」「ちはやぶる」。

posted on August 13, 2016
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