邪魔や太一――新はそう思ってしまったが、我に戻る。
おれはまた… かるたで太一を見下して なにしとんのや 「3人で勝ってきて ここに来れたからや」 その気持ちはうそやないのに
太一は頻繁に札を移動。右中段に札を集め、新に狙わせ、他を全部取る作戦だ。
「やった! 4連取 いけるかな? 4枚差」
無邪気に言ってのける太一に、新は押され気味。
ムリすんなよ 新 邪魔だろ? おれのこと そう思っていーんだよ いい子でいんなよ おれはずっと 12のころから おまえが邪魔だったよ
若宮は新幹線で移動中。隣の席の人が、若宮がかるたクイーンであることに気付いた。彼女達はアイドルのライブへ向かう道中で、自分のお金を好きに遣うつもりだ。
「ええな お姉さんたち かっこええわ うち クイーンやいうても プロやないし 好きなものも まだ自分では買えん……」
そう愚痴った後、恥じ入る若宮。
こないだは結川さんにもポロッと言ってまうし なんやろな 嫌やな 嫌やな しっかり者の女の人に弱いんや
彼女達は若宮を励ます。
「クイーンちゃん ようわからんけど かるたは知らんけど 百人一首やったらわかった めっちゃ強い味方やで 助けてくれるで がんばってな」
彼女達が下車した後、若宮は座席に残されていた切符を拾う。それが彼女達を助ける形になった。若宮は祖母や結川を思い浮べながら、藤岡屋の紙袋を携え歩き出す。
しっかり者の女の人でも 助けが必要なことがあるってわかるんや
結川陣の右下段から札がなくなった。千早は左下段を狙って行くしかないが、気にし過ぎて出遅れる。結川の調子は良い。但し、千早も絶好調なのが伝わって来る。千早が「みかのはら」を取った。結川は蒼白。千早が札を一枚送って来る。結川はふと観覧者席に目をやった。一呼吸置いて申し出る。
「すみません もう一枚です もう一枚送ってください 『みかき』に触りました ダブです 送ってください」
一枚が死ぬ程痛い場面での自己申告。千早は気付いていなかった。審判は結川が言わなければ自分が注意するつもりでいた。
強い相手は怖いけど 自分を卑怯と思うことのほうが ずっと怖い 大丈夫 次の試合で勝つ目はあるわ
第一試合は七枚差で千早の勝利。
太一と新はモメてばかり。全部太一がモメて、すぐに引いている。
思っていいんだよ 新 邪魔だって そこそこ強くなったおれは 邪魔だって その気持ちを認めるとこからしか おれたち 対等になれねえ
太一が飛ばした札を拾いに立ち上がる。しかし、新が自分の取りだと申し出る。太一は自分の取りだと信じて疑っていなかったが、新は引かない。ここで太一が取ったら2-1となり、勝ちが見えるのに。
勝ちも負けもどうでもいい
周防がかつて言った言葉が、太一の「勝ちたい」気持ちに「手放せ」と言っている……。太一は葛藤の末に譲り、三枚差で新の勝ちが決まった。
観客が撮っていた映像を見返し、太一の方が早く触っていると話している。それが審判、そして新の耳にも届く。
memo
挑戦者決定戦、第一試合は千早と新がそれぞれ勝利。新は自分からはモメたことがなく、モメられたら譲り、それでもちゃんと勝って来ていた。太一戦に限り、相手にモメられても引かず、唯一自分からモメてみた今回ばかりは実は相手の取り、しかも勝負が決まる局面だったので、しこりが残ってしまった。また、太一が全て譲っていたという経緯もあり、三枚差での勝利は微妙にも思えてしまう。
正直に申し出て負けた結川と、悪意は無かったのに申し出たことで勝利を得た新、という対比も辛い。しっかり見ていた女性審判と、ボンクラ?な男性審判の差も残念。最後の場面で審判を求めていたら、判断がどう付いていたのだろう。自分からモメる割に結局譲っていた太一は狼少年のようだったし、珍しく「あの新」がモメたぐらいだから新の取りかな、くらいの先入観を持ってしまっていたりするのか。
通りすがりのお姉さん達の「(百人一首は)めっちゃ強い味方やで 助けてくれる」は、第4巻第19首で太一が千早に言った「ずっと連れていく いちばん近い味方なんだよ」を思い起こさせる。
読まれた札は「わすらるる」「はなさそう」「よもすがら」「こぬひとを」「あいみての」「わびぬれば」「みかのはら」「ももしきや」「ほととぎす」。太一が取った「こぬ」の表側がわざわざ描かれているのが気になる。新陣にあり続けていた「ちは」の最終的な行方は不明。