千早が「あわじしま」を素早く札を取る様子に、周防が見入っている。千早母も千早が速く取る様子と聴力との関連に驚く。動き出しが早い千早につられ、結川も手を出すが「おくやまに」でおてつき。
腹立つわ 「おく」やないのがわかってたけど 念のため動いてみた みたいな
千早の大山札「きみがため・お」の取り方が若宮を意識して練習して来たことに、結川が気付く。千早が「みちのくを」を取り、結川は「みかのはら」を送られる。
みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
みかの原から涌き出て分かれていった泉川ではないが、いったいいつ会ったといって、こんなに恋しいのだろう――という意味だ。
結川が札を移動。以前のように、利き手の左側に札を多く配置し直す。
「攻めがるたの人は 右下段右下段言いますけど 右下段なかったらどうしますんやろ」
千早の反応が遅れ、結川が連取。思い返すのは、横浜嵐会田沼元名人の言葉。
自分の実力はいきなりは変わらない 同じようにやっていて勝つためには 相手に遅くなってもらうしかない
結川が「みかの」を送り返す。
しかたない 思ってしもうたんやもん いつか歳取ってから言うかもしれんって 「ああ あのときの若宮さんも 神様みたいに強かったんや」 「綾瀬さんも」 いつか恋しく思う最盛期の神様を前に 全力を出してなかったら 未来の自分にしばかれるわ
千早は右利きにとって嫌な配置に苦戦。
そうか 結川さんも……… やりにくい でも それでこそ決定戦
新が珍しくもめる。新が前回もめた相手も太一だった。審判の判定は太一の取り。太一は自分のかるたに集中。
周防さんが見せてくれたかるたは 穴がたくさんあいている 勝ちも負けもどうでもいい かるたもどうでもいい 強さもどうでもいい 目の前の相手もどうでもいい
太一が「ち」で新陣の「ちは」を囲った後、「ちぎりきな」を取る。新は完全に出遅れていた。
どうでもいいって手放せると 身体が軽くなって 相手の身体のこわばりがわかる
太一が息を吐き、新も息を吐いた。太一が息を吸うと、新も吸っている。太一がフッと動いて「ち」で手を伸ばし、新は「ちは」に触れるが、読まれたのは「ちぎりおきし」。
なあ 新 「水が流れるようなかるた」を止める方法は せき止めるだけじゃないよな おれのほうがたくさんの水を流して 新が石になるのはどうだ?
次の「なつのよは」は、新がムキになって取り、太一を睨む。
かんちがいすんなよ かるたで強いのは おれや 邪魔や太一
太一はほくそ笑む。
そう ずっと その顔が見たかった
memo
挑戦者決定戦一戦目、熱い戦いが続く。千早との実力差を認識しつつ、全力を尽くそうとしている結川。新は収めた筈の「邪魔や太一」という感情と共に再ブラック化。穴ボコだらけの姿で描かれている太一は、第29巻第149首にて母親軍団が「子供は穴ボコだらけなのに一人で生きているみたいな顔をする」と話していたのが連想される。
千早母が、太一の対戦相手が小学生の時に太一と一緒にチームTシャツを綾瀬家に届けに来たメガネの子だと気付き、その三人がこの場に一緒にいるなんて、と驚いている。新は第31巻の全国大会で千早と対戦しているのだが、相手のことまで見ていなかったらしい。今回は太一が居たから記憶が繋がったのか。でも、その全国大会時、太一母は新のことがすぐ分かり、太一に電話していたという。
登場した札は「あわじしま」「おくやまに」「きみがため・お」「みちのくの」「みかのはら」「ちぎりきな」「ちぎりおきし」「なつのよは」。