千早が「ひ」で取ったのは、この時点で二字決まりの札。甘糟はヤマがたまたま当たっただけと納得しようとするが、須藤は千早の聴力に内心驚いている。
イチかバチかで取ってるんじゃない 綾瀬千早は聞こえてる 「聞こえてる」んだ 自分の声のなにで判断されてるのかわからない でも確実に 「ひさ」と「ひと」の「ひ」はちがう音なんだろう 知りたい なにが届いてる? 知りたい
須藤は千早を見て、ゾクッとする。
おれの声が 「届いてる」んじゃない つかまれる
原田先生が千早に「速く取るのをやめなさい」と言ってから九か月。
苦しかったろうに 千早ちゃん 進んでる 正確さに専心する前半 リスクを負って ダメージを与える速い取りで巻き返す後半 武器を増やそうとしてる
千早は周防や駒野の言葉を思い浮かべている。
ああ いいんだ 説明できない音になるまえの音 「聞こえる」って言っていいんだ 私も
甘糟がお手つき。須藤は心の中で、千早に口撃を仕掛けろ、と思う。
でも 読手にならなければわからない気持ち 邪魔をしたくない ここまでの集中を
甘糟に焦りが出て、千早と五枚もあった差が一気になくなった。一方、駒野は去年15枚もの大差で負けた相手と対戦中。相手に舐められているようだ。次の「ちはやぶる」の札は、四人全員取った。駒野に上手く取られ、相手は焦っている。
去年きみに負けてから この一年 かるたが楽しかったのは絶対ぼくのほうだ 絶対ぼくだ
しかし、四人とも僅差。西田は気付いた。手持ち札の妙で、運命戦になったら負ける。自分の手元しか見ていない千早が、送り札を間違えてしまった。
ああ… やられた 北央の”札分け”の完成だ
memo
決勝戦を見守る須藤。読まれたのは前回続きの「ひ」を除き、「たまのおよ」「やまがわに」「おくやまに」「よのなかよ」「ちはやぶる」「みちのくの」。