千早は読手と合わないのか、予選ほど圧倒的ではない。西田は10枚差で勝っている。太一は仲間に気を配り、自らの作戦を練りながらも、ヒョロから言われた「万年B級」や、千早や周防、若宮、新といった「才能」ある面々が頭にちらついてしまう。
更に、太一の真上のエアコンだけが止まるという不運。暑くてタオルを取ろうとするも、傍には原田弟子達がくれたお守りしかない。
「部長面した彼なら 押し切れるかもしれない」
坪口にそんなことを言わせておくな、と太一を見守る原田。
試合は接戦が続く。花野は太一を見ながら考える。
2カ月も見てたらわかる 真島先輩は綾瀬先輩を好きだって どうして 綾瀬先輩は真島先輩をちっとも見てないのに
暑さのあまり、ついに太一が「誰かタオルを」と声を上げる。瞬時に、宮内先生、大江母、原田弟子達、花野から、太一に投げられるタオル。間に座る駒野を押し退け、千早も満面の笑みでタオルを差し出して来た。太一の辛そうな顔を見て、千早の表情が変わる。太一は千早のタオルを取り、それを使う。
いつも…… かっこつけて… 負けたとき恥ずかしいから 遠くの大会に内緒で一人で行って 自分が一人じゃないことくらいわかってる でも 一人でも強くなりたいんだ
声は出すが、札から目を離さず、チームメイトももう見ず、太一は札を取って行く。原田は太一を見守り続けている。
そうだ まつげくん 団体戦は個人戦 札と向き合え 仲間を信じて一人になれ
観戦していた花野が立ち上がる。チームの在り方に気付いたのだ。決勝で当たる相手の偵察へと向かう。
太一は逆転し、一枚対六枚まで来た。しかし、あと一枚なのに敵陣ばかりが出続けるという、これまた不運。太一の頭の中には、これまで読まれた決まり字が95枚分羅列されている。96枚目を敵陣から見事に抜き、太一の勝利。気付けば仲間は試合を終え、太一を見守っていた。
みんなは勝った? 何勝何敗? ああ もう そんなこともわからないなんて 部長失格だ
四勝一敗で瑞沢の勝利。この勝負は読まれた札の把握の正確さで差がついた、と坪口が指摘する。
「気持ち悪いよな~~ そこまでの暗記 毎日すっごい練習すんだぞ 気持ち悪いよな~~ でも あの努力におれも励まされるんだ」
タオルを貸してくれた皆に礼を言う太一。花野は内心思う。
……油断ならない 綾瀬先輩もじつは 真島先輩を見てる――
その千早はまたもや、生徒に囲まれている坪口に魅せられた様子だが。
決勝戦は強豪、北央戦。決勝戦に残った二校は全国大会確定なので、北央の甘糟部長はお気楽モード。太一、駒野、大江の三人を潰し、最小限の力で優勝するという作戦に出た。
memo
朋鳴戦、エース相手に苦しむ太一。読まれた札は「しらつゆに」「ひとはいさ」「こいすちょう」「すみのえの」「つきみれば」「ありまやま」。タオル渡し時、勝利後の太一が何だか泣きそうな顔。だが、それがイイw