右手が完治した千早と太一の練習は、ますます迫力あるものになっていた。千早はクイーン戦予選のことは口にしないが、その前に行われる吉野会大会に袴で出ると言う。全国の実力者が集まって来る、A級とB級のみの大会だ。部員達は恐れる。
ありうる…… ありうる 修学旅行ボイコットしての東日本予選出場――!
10月、吉野会大会には、新の所属する福井南雲会、白波会に翠北会、北央、富士崎など、馴染みある顔ぶれが参戦。原田先生もテンションが高い。
「まつげくん まつげくん やっと同じ大会に出られるな 待ってたよーー! まえ きみに言った 『個人戦は団体戦 団体戦は個人戦』 あの言葉を一緒に証明しようじゃないか 全国のかるた会をともに蹴散らそう あっ そーいえば聞いたよ 修学旅行の件 本当に残念だ まつげくんの運のなさも なかなか根が深い……」
原田はにやっと笑う。
「焦ることはない きみらはなにもかもこれからだ ようこそ A級の世界へ」
千早は新に小さな声で「袴きれいやな」と言われて赤面。しかし、すぐ勝負師の顔になる。
「私 今日はこの袴で 全部勝つから」
新も「負けんでなぁ」と応戦。
そんなやり取りを見ていた須藤が、千早にまた賭けを持ち掛けて来る。先に負けた方が二週間後の名人戦欠場、というもので、太一が受けて立つ。どうせ修学旅行の日程と重なっているのだ。
おれ この秋は 右手のおまえに 公式戦で勝つ
太一にそう言われた千早だが、公式戦では同じかるた会の選手は勝ち上がらないと当たらない。
B級で参戦した駒野は、13枚差で敗戦。昇級したばかりで勝てなくて当然……と涙が出る。自らの頬を何度も叩いて悔しがっていると、大江が止めに入った。皆A級の応援に行ったと思っていたが、大江はB級の試合を見ていたのだと言う。
「机くんが優勝するって言うから それは見とかないとって…… でも 私がB級に上がるほうが早そうですね すぐ追いつきますよ!」
思わず涙を零してしまう駒野に、涙を浮かべる大江。
僕に期待してるのは 僕だけじゃない 僕を見てるのも――…
A級では、千早と太一が勝ち抜け。西田と須藤の戦いは続いていた。熱戦の末に西田は負けてしまうが、須藤を疲れさせる。悔しさでいっぱいの西田だが、思うところがあった。
須藤さんは強い…… 邪魔になる これからのおれの仲間の邪魔になる 勝てなくっても力の限り削ってやった おれの仲間のだれかが勝つ 見てろよ!!
太一も原田が言ったことを考えていた。
『団体戦は個人戦 個人戦は団体戦』 ずっと…… 個人戦は一人一人バラバラに 個人の成績のために戦うんだと思ってた―― ちがう 個人戦こそ 本当の団体戦なんだ
memo
吉野会大会。読まれた札は机くんの試合での「はるのよの」のみ。机くんとかなちゃんが良い雰囲気。