終戦し、新側の陣に残された「ふ」と「ちは」の札。勝者は原田秀雄六段、とのアナウンスに沸く観衆。千早が見上げると太一も涙を流しており、それを見て千早は太一にしがみついて更に涙。原田陣営は皆抱き合って泣いている。北野先生もボロ泣き。
歓喜の輪も落ち着いたところで、千早が着けているマフラーに気付いた太一が、周防名人に借りを作るな、と怒って返しに行く。
正座していた新は、床に倒れ込む。
『ふ』と『ちは』…… どうしても自分が取るんやと思った 特定の札にそこまでこだわることないのに 今日は……
新は小学生の千早が「ふ」と「ちは」の札を嬉しそうに語っていた姿を思い浮かべる。
こだわるべきでなかった? そこが敗因やろか? じいちゃん…… ちがう おれはじいちゃんでない おれがおれのまま 勝つには…
千早に名前を呼ばれ、新は慌てて起き上がる。千早に労われ、「千早なら終盤どうした?」と訊ねる。
「私は攻めがるただから 『ふ』も『ちは』も送ると思う 特別だから 手に入れたいものほど手放すの かならず取ると勝負に出るの」
にこっと笑う千早に、新は小学生の自分と千早を思い浮かべた。千早が当時言った台詞も。
新 ずっと一緒に かるたしよーね
額に手を当て、目元を隠す新。何だろうといった表情で、新の顔を覗く千早。新が笑顔を作った。
「好きや 千早」
新はきちんと座り直し、目を見開いて凝視して来る千早に、頭を下げて言う。
「太一が言ってたかもしれんけど おれ 大学はこっち来ようと思ってる もし 気が向いたら」
そこまで言ってから新は頭を上げた。
「一緒にかるたしよっさ」
千早は口を半開きにして、驚いている。新は真っ赤な顔を俯かせ、恥ずかしそうに片手で顔を覆い、それから何かを決意したような表情で立ち上がって行ってしまう。残された千早は頭が真っ白になり、その場に倒れ込んだ。その一部始終を数メートル先から見ていた大江と花野は「えええええええええ」と絶叫。
太一は周防にマフラーを返すが、千早との関係を訊かれる。原田先生の言葉が蘇る。――青春全部懸けたって強くなれない? 懸けてから言いなさい。
原田先生 原田先生は 青春どころか
太一は口元に力を入れ、きっぱり言う。
「彼氏です ちょっかい出さないでください」
村尾は新に問う。
「努力も才能も おれは劣ってたとは思わんけど 『ない』ものには会えたか?」
新は一呼吸置いて答える。
「意地悪さ…… …… 経験…… 情熱 愛情 愛情 愛情…」
その頃、千早は屋外にて一人呆けて座り込んでいた。
memo
名人戦挑戦者が決定。突っ込みどころが幾つか。小学生千早の「新 ずっと一緒に かるたしよーね」は第1巻第4首からの回想だが、正確には「新 太一 ずっと~」で、太一の名前が挟まれている。都合の良いところだけを抜き出している点が気掛かり。
もう一つ、周防は太一に「彼氏です」と宣言されて泣いてるけど、数刻前の第22巻第117首で千早は彼氏について「いませんよー」と答えていたじゃないですかw
新告白場面は後の第26巻第138首で重大な後出しアリ! 「一緒にかるたしよっさ」の後、新が顔を真っ赤にしたり、眼鏡を弄ったりする場面はコマ送りだが、ここで実はもっと更にすんごい台詞を口にしているようだ。ただ、かなちゃんと菫はそこで興奮し過ぎたのか、「一緒にかるたしよっさ」までしか聞いていない模様? それでいて後出し台詞と同等=プロポーズと解釈し、読者向けにも話がそう展開されて行く。
紅葉描写は「かならず取ると勝負に出るの」で最高潮で、気持ちが盛り上がって「好きや」に繋がったといったような臨場感がある。