世界遺産にも登録されているタージ・マハルは、ムガル帝国の第五代シャー・ジャハーン帝の妃であるムムターズ・マハルの霊廟。通常では「マハル」は宮殿を意味するが、妃の名前が変化して「タージ・マハル」になったと言われている。
南門から正門へを抜けると、四区画に分割された庭園、その向こうに白大理石の巨大建造物が見える。その両側にはモスクと迎賓館という、見掛けは同じながらも目的は違う施設が並ぶ。庭園越しに正面から見ると左右対称、白亜の霊廟は四方どの角度からでも同じに見えるよう造られている。更に、視覚的な美しさを追求し、四つの尖塔は若干内側に傾斜――全てが計算され尽くされ、完璧!
正門も美しくシンメトリー、左右対称。
霊廟の左側に建つモスク。右側には同じ形の迎賓館が建っている。
タージ・マハルの建設には、22年の歳月と国が傾くほど莫大な資金を注ぎ込まれている。更には、河の対岸に黒大理石で色違いとなる皇帝自らの墓も建て、橋を渡すという計画もあったそうだ。しかし、その壮大な夢は叶うことなく、晩年の皇帝はアグラ城に幽閉され、死後はタージ・マハルで妃の横に並んで葬られることになった。
ツアーガイドのシンさんによる案内が一通り終わり、私達が自由行動に移った瞬間を見計らい、係員と称する男が現れて勝手に解説を始めた。そしてクイズ、「タージ・マハルは全てが左右対称に造られているが、左右対称ではないところが一箇所あります。さて、どこでしょう」。彼のことは半ば無視していたが、私は見たままに即答した。「壁に書かれているアラビア文字!」
これも間違いというわけではないが、自称係員が欲しかった答えは「霊廟内の皇帝と妃の棺が並んでいるところ」。こんな下らない指摘をする者はいないのか、自慢のシンメトリーに余計な突っ込みを入れられたくなかったのか、彼の表情が曇った。私としては、各書籍による事前学習の成果だったんだけれどな。振り返って確認すれば、正門の文字もだ。
自称係員は気を取り直して「タージ・マハルを綺麗に撮影出来る場所を教えてあげる」と言い、正面から少し逸れた場所へ私達を誘導しようとした。この流れはやはり、と一人遠巻きに見ていれば、案内された場所で皆はチップを要求されていた。彼が去った後でなるほどと思い、そのスポットに立つ。柱と梁を利用して撮影すると、額縁に入ったかのようなタージ・マハルの出来上がりー! って、ちょっとずるかったか。
霊廟内へは靴を脱ぎ、素足で入らなくてはならない。靴は「汚れ物」なので、持ち込み自体が禁止。入口には靴を預かってくれるオジサンや子供がいる。観光客で混雑する中で大量の履物を扱っているので不安だが、彼等は一人一人きちんと覚えてくれていた。記憶力に感心しつつ、チップを払わなくてはならないが。
狭い入口を通過する際、前に並んでいた人につられ、うっかり花を受け取ってしまった。人波に呑まれて後戻り出来ず、捨てるのも躊躇われ、花をくれた人からは遠ざかったし、まあいいかと棺に捧げれば、花売りの仲間が待機していて即座に「ルピー!」。しっかり供花代として10ルピーを請求された。何処に行ってもチップを払わざるを得ないよう、上手く仕組まれているのだった。
棺のある内部は撮影禁止。